HOKUTO編集部
1年前
本企画は、 4人の腫瘍内科医による共同企画です。 がん診療専門医でない方でも、 ちょっとしたヒントが得られるようなエッセンスをお届けします。 第3回目は「治療の全体像」をどう共有するかがテーマです! ぜひご一読ください。
最後に、 治療の全体像についての説明をします。 第1回でお話しした、 「患者さんを出口のないトンネルに迷い込ませないこと」が大切です。
確かにトンネルの出口は、 治ることはない、 命に関わる状態、 という患者さんにとっては辛いものではあります。しかし、 出口と同じくらい大事なことは、 それまでの道のりです。 それが患者さんの人生にとって暗いトンネルではなく、 明るい旅路になれるようお手伝いするのが我々の役目です。
治療の全体像で大事なポイントは次の5つです。
緩和治療というのは、 あらゆる手段 (薬剤、 外科処置、 放射線治療、 カウンセリング etc.) を使って、 本人にとって不快な症状を緩和するという、 全ての基礎になる治療です。 必要であれば、 診断された時から始まりますし、 例えば抗がん剤の副作用に対処する治療も緩和治療の一環です。
抗がん剤治療は、 その上に乗っている追加の治療という立ち位置と考えられます。 抗がん剤治療により、 がんによる症状が取れる場合もあり、 そういうときには抗がん剤であっても、 緩和治療の一環と考えることができます。
第1回の転移のある状態の意味、 というところで「完治は難しい」という説明をしました。 その理由の一つにもなりますが、 がんが抗がん剤に耐性を作り、 いつかは抗がん剤が効かなくなる日がやってくることが予想されるという説明をします。
💬 腫瘍内科医のTips
新型コロナ感染症のパンデミックを経験し、 「コロナウイルスにどんどん新しい株が出てくることと似てますね」とおっしゃる患者さんが増えました。 このような例を使うのも一つの方法かもしれません。
一番よく効く可能性が高い薬剤を1次治療として使用しますので、 図に示すように、 1次治療の時間が一番長いことが多いです。 ただし、 中には1次治療があまり効かなかったが、 2次治療が長く効く場合もあるので、 一概には言えません。
「病気と治療とうまく長く付き合う」ということは、 「症状のない元気な時間をより長く」という意味合いを持ちます。 この目標を目指すためには、 抗がん剤を敢えて使わないという選択肢が選ばれることがあります。 すなわち、 効果の期待できない抗がん剤を使い、 副作用の症状で苦しんでしまう場合や、 体力の弱っているところに抗がん剤を使用することで、 逆に命を短くしてしまう場合などが考えられます。 「症状のない元気な時間をより長く」という治療目標にとって、 抗がん剤を使わず緩和治療に集中するという治療方針は、 決して消極的な治療選択ではなく、 積極的な治療選択であるという事を伝えることが大切です。
💬 腫瘍内科医のTips
嬉しいことに、 現在、 多くのがん種で、 1次治療が非常に長く効いてくれることがあります。 そうすると、 患者さんも最初にお話ししたこの内容を忘れてしまう事も多いです。 話した内容や図をカルテに取り込んでおいて、 治療が変更するタイミングなどで、 かいつまんでお話しし、 目標の共有を確認すると良いでしょう。
さて、 3回に渡りお送りしてきました本テーマですが、 いかがでしたでしょうか?
私自身がいつからこのような話し方をしているのか、 思い出すことはできませんが、 今まで教わってきた先生たちから受け継いだもの、 患者さんと話しながら思い付いて付け加えたものが混じり合って、 今の形になったのだと思います。 そして、 これからも、 変わったり付け加わったりしていくのだと思います。 まさに、 これから続く、 この「がん診療における羅針盤」シリーズで、 様々な先生たちの「私はこう話してる」を読んで、 新たな発見をしたいと思っています。
この内容が皆様の明日からの臨床のヒントとなり、 そして何より患者さんたちが自分らしく生きていけるために少しでもお役に立つことができれば幸いです。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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