IBDマニュアル
8ヶ月前
本コンテンツでは原因不明で治療が困難な炎症性腸疾患 (IBD) について、 疫学・病態・治療などの観点から解説を行います。 最新のエビデンスを基にしておりますので、 是非臨床の参考としていただければ幸いです。
横浜市立市民病院 炎症性腸疾患科
クローン病には近年でも内科治療で改善できない病態があり、 外科治療の役割はいまだ大きい。 クローン病の手術適応を以下に示す¹⁾。
▼穿孔
自覚症状がなく、 炎症反応も陰性で突然に発症する場合がある。 多数回手術症例では単純X線撮影などで腹腔内遊離ガス (free air) がわかりにくい場合があるため、 できればCTも撮像する。
▼大量出血
循環動態の安定を図り、 必要に応じて輸血を行う。 未使用例であれば抗TNFα抗体製剤などの使用も考慮する。 止血や循環動態の安定が得られない場合は時機を逸せずに手術を行う。 病変が多発する本症では、手術中に出血部位の同定が困難な場合があるため、 術前に造影検査や血管造影検査などを行い、 大まかな出血部位を把握しておくことが望ましい。
▼膿瘍 (腸間膜内膿瘍、 後腹膜膿瘍)
まず絶飲食、 抗生剤使用で保存的治療を行い、 可能であれば超音波あるいはCT下でドレナージを行う。 これらに続く内科治療強化で改善する例があるが繰り返す場合が多いため、 手術を積極的に考慮する。
▼狭窄
狭窄の範囲が長い場合、 短い範囲に多数の狭窄がある場合、 口側に著しい拡張がある場合、 頻回に内視鏡的バルーン拡張術が必要な症例、 繰り返す狭窄による腹痛や栄養維持が困難などでQOLが低下している症例が適応となる。
▼瘻孔
内瘻は薬物治療の有効率が低く、 長期間経過すると内瘻を形成した病変部の周囲に正常腸管が巻き込まれ、 手術時にこれらを合併切除せざるを得ない症例もあるため、 積極的に手術を考慮する。
外瘻 (皮膚瘻) は分泌量が少なく、 1日数回のpad交換程度で日常生活に支障のない症例では内科治療の継続でよいが、 外瘻からの分泌量が多く、 日常生活の支障や水分や電解質の異常を来す症例では手術を考慮する。
▼癌
慢性炎症のある病変に生じ、 本邦では直腸肛門管癌が多いものの、 結腸や小腸、 瘻孔部などにも生じ得る。 小腸癌は線維性狭窄との鑑別は困難で、 術中や術後病理組織で診断される場合が多い。
患者のQOLを中心に適応を考慮し、 患者、 内科医、 外科医が十分に話し合って決定する。
▼手術範囲
内科治療に抵抗する合併症の原因となっている主病変部のみを対象とし、 できるだけ潰瘍がない部分で吻合する小範囲切除術とする。 小腸においては、 できるだけ腸管を温存する。
▼狭窄の手術
限局性の線維性狭窄では狭窄形成術を行う。
▼瘻孔の手術
病変部に巻き込まれた正常腸管や膀胱、 腹壁などに対する処置が必要となる場合がある。
▼癌が疑われる症例の手術
術中に癌を疑った場合は術中病理診断を行い、 診断がつかない場合は周囲臓器を含めた切除を行う。
▼吻合
全身状態や腸管の状態が不良な例では吻合は行わず、 人工肛門を造設し、 2期的吻合も考慮する。
吻合は合併症や術後再手術などを考慮しながら、 施設ごとに方法を選択する。
CECDAI : Capsule endoscopy Crohn’s disease activity index
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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