HOKUTO編集部
3年前
オミクロン株の感染拡大が止まりません. 2022年2月7日現在、7日間の新規感染者数の平均は約18,000人と過去最多レベルで推移しています. またお亡くなりになった方は7日間平均で7名と比較的低い水準で推移しています¹⁾. また大部分の都道府県 (2月7日時点で35の都道府県) でまん延防止等重点措置が取られ²⁾、飲食店の閉店時間前倒しなどの対策が再び取られています.
世界的に見ても、SARS-CoV-2の大部分はオミクロン株に置き換わっています. ウイルス情報の収集を行っている世界的組織であるGISAIDの発表によると、2021年1月末までに配列が登録された株の約9割がオミクロン株でした³⁾. オミクロン株には最初に報告された「B.1.1.529株」に加え、同じlinageに属する「BA.1株」「BA.2株」「BA.3株」も出現してきました. GISAIDによると、現在大流行しているのはBA. 1株で、オミクロン株全体の約99%を占めます.
オミクロン株の特性について、いろいろなことがわかってきました. また現時点までで得られた科学的根拠に基づき、我が国は迅速にルールの変更・緩和を行っています. オミクロン株の特性を、それぞれに対して取られた政策とペアにして述べたいと思います.
従来株で厄介だったのは、その重症化率の高さに加え、ウイルス排泄量 (viral shedding) のピークが発症2日前から発症日にあるというデータでした⁴⁾ . 発症前の「濃厚接触者」の追跡は困難を伴い、主に保健所の業務過多につながってきました. しかし、本邦の国立感染症研究所のデータによると、オミクロン株のウイルス排泄のピークは発症から3-6日後にあることがわかってきました⁵⁾. これが事実として受け入れられれば、「発症したらすぐ隔離」すれば、濃厚接触者の発生を理論上高確率で抑えられるかもしれません. しかし、残念ながら無症候性感染例も散見されること、小児患者は症状が軽微の場合自己申告が難しいことなどもあり、今後濃厚接触者の追跡が不要となるかどうかは議論が待たれるところです.
オミクロン株は従来のデルタ株までの変異株に比べ、潜伏期間が3日間程度と短い可能性が示唆されています. 国立感染症研究所は国内のオミクロン株感染例30例の発症間隔の中央値は2.6日 (95%信頼区間2.2-3.1) と報告しました⁶⁾. これを踏まえ厚生労働省は1月28日付けで、濃厚接触者の自宅待機期間を「最終接触日から7日間 (エッセンシャルワーカーは5日間) 」に短縮しました. また文部科学省も2月2日付けで、新型コロナウイルスによる臨時休校や学級閉鎖期間の目安を、従来の「5〜7日間」から「5日程度」に短縮する方針を発表しました.
さらに、幸いオミクロン株は重症化リスクがデルタ株など従来株に比して低いことがわかっています⁷⁾. プレプリント論文では、2週間以内に重症化または死亡に至る率は、従来株を1とするとデルタ株は1. 34、オミクロン株は1. 04とされています⁸⁾. それを反映してか、死亡者数は冒頭で述べたように低いレベルで推移しています.
オミクロン株の感染力は従来株に比べて高いことがわかっています. 国立感染症研究所の分析では、首都圏のオミクロン株の実行再生産数は1. 41と、デルタ株の1. 33よりも高いことが判明しています⁷⁾. なにより、感染者数のdoubling-time (倍加時間) の短さは凄まじく、従来株とは比較になりません. 家庭内や療養施設での集団感染を防ぐのは、より一層困難となっているのが現状です. ワクチン接種者がほとんどを占めている集団においても、大規模なクラスターが全国的に多発しています.
これを受け、医療機関の負担軽減を目的として、2022年2月2日時点で17の都府県で「みなし陽性」の仕組みがスタートしています. これは「同居者にCOVID-19患者がいる人がCOVID-19らしい症状を認めた場合、確定検査を行うことなくCOVID-19と診断できる」というものです.
しかし現場にいて思うのは、明らかに「みなし陽性」とできるような臨床経過であっても、患者さんが検査を希望する場合が多いということです. 例えば、会社や学校などの所属組織から「検査を受けてくるように言われている」場合や、「検査なしでの診断は納得できない」とおっしゃる方が多数いらっしゃいます. 医療現場では、個々人の事情にいちいち疑問を呈することは時間制約上難しいため、結局検査をしてしまうことも多いです.
さらに、明確な接触歴がないが一家全員でCOVID-19らしい症状が出ている場合でも、実際は全員PCR陰性ということも経験します. もし「みなし陽性」を適用する場合、有症状かつ明確なCOVID-19患者との接触歴があることを確認しましょう.
オミクロン株による死者数は非常に少ないレベルで推移しているのは事実ですが、この変異株を軽視してはいけません. デルタ株が猛威を振るった第5波と比べ重症化率が低いものの、患者数が多いため裾野が広く、結局入院する患者の数は実感としては変わりません. また、合併症も含めて重症となってしまっている患者さんも多くいらっしゃいます. 筆者の周囲のクリニックや在宅医などからは、第5波より大変だという声もちらほら耳にしています. 依然として通常の医療提供体制を大きく逼迫する緊急事態が続いているのが現状です.
大事なことは、我々はオミクロン株以降も、新たな変異株の流行を経験する可能性を再認識すべきだということです. オミクロン株の死亡率が低いことが影響してか、3回目のワクチン接種が思ったように進まないことが問題となっています. リスク因子を有する層に、積極的にワクチン接種を働きかけることは極めて重要です. 2021年10月から11月に、米国でワクチン未接種者のCOVID-19罹患率と死亡率が、ブースター接種まで終えている人に比べてそれぞれ約14倍と約53倍多かったとするデータもあります⁹⁾. デルタ株を超える重症化リスクを有する変異株が、今後出現する可能性もあるのです. まだまだ戦いに終わりは見えませんが、何とか踏ん張りたいものです.
以上オミクロン株の最新情報updateをお送りしました. 今後も科学的根拠に基づく対策が進み、止まってしまった社会が少しずつ動き出してくれることを祈るばかりです.
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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