栄養療法マニュアル
1年前
本コンテンツは造血幹細胞移植時の栄養療法について、 専門医の視点からわかりやすい解説を行う企画です。 是非とも臨床の参考としていただければ幸いです。
一般的には総投与カロリーのうちの20~30%を脂肪乳剤にて投与することが推奨されている。 必須脂肪酸の補充としては10%程度で十分とされているが、 糖質の負荷を減らすことなど含めて、 20~30 %を脂肪乳剤として投与することが一般的である。 また、 Thomasでは総投与カロリーの最大40%、 最低6~8%と記載されている¹⁾²⁾。
必須脂肪酸欠乏を予防する目的では成人、 小児ともに1日エネルギー必要量の1~2%をリノール酸、 0.5%をリノレン酸で摂取すべきとされている³⁾。 血糖コントロールが不良な場合には高脂血症がなければ、 さらに増量しても良い。 あまり一般的ではないが、血糖コントロールが不良な場合には高脂血症がなければ、さらに増量するという選択肢もある。
European Society for Clinical Nutrition and Metabolism (ESPEN) guideline (non-surgical oncology)でも、 栄養補充の必要性が高い症例では脂肪乳剤を増量することを勧めている⁴⁾。
脂肪として、 0.10g/kg/h以下の投与速度にて投与する⁵⁾⁶⁾。 具体的に計算した値を示すと表のようになるが、 すぐに計算することは困難であるし、 その都度、 投与時間の指示を出すのも繁雑である。
毎回数値が異なると間違いの元でもあるので、 妥当な範囲で統一するのも一つの考え方である (体重50 kg程度として計算すると下記のようになる)。
20%脂肪乳剤:100mL 4時間かけて投与
20%脂肪乳剤:200mL 8 時間かけて投与
20%脂肪乳剤:250mL 10 時間かけて投与
本邦では造血幹細胞移植時には脂肪乳剤を使う施設は限定的だが、 欧米ではガイドラインに記載されている通り脂肪乳剤を使用するのが一般的であり、 アジア各国も同様である⁷⁾。
造血幹細胞移植時には脂肪乳剤に伴う感染症を危惧する方もいるが、512例の骨髄移植症例で総投与カロリーの内の脂肪乳剤の割合を6~8% (低用量) と 25~30% (通常用量) の2群にランダム化した試験では感染症の増加は示されていない⁸⁾。
イタリアのランダム化試験ではアミノ酸以外を糖質100%もしくは糖質20%+脂質80%にランダム化した結果が報告されているが、 感染症の発症率に差は認められず、 脂肪乳剤をやや過剰な量投与しても必ずしも感染症が増えないことがわかっている⁹⁾。
本邦でも、 古典的な骨髄破壊的前処置を用いた同種造血幹細胞移植時の経静脈栄養に脂肪乳剤を使用するか否かをランダム化した前向きの臨床試験において、 脂肪乳剤の有無は感染症の発症に影響を与えなかった¹⁰⁾。 また、 脂肪乳剤を投与しなかった群では、 血糖コントロールを行うと投与カロリーが不足しやすく体重減少が高度となった症例が多く認められた。 したがって投与カロリーを維持する為には脂肪乳剤の使用が勧められる。
脂肪乳剤投与時には高脂血症 (高トリグリセリド血症) に注意が必要である¹¹⁾。 ただし、 脂肪乳剤を投与していない場合でも糖質の負荷が多いと高トリグリセリド血症を招くことがある¹²⁾。 脂肪乳剤の投与をランダム化した試験では脂肪乳剤を投与しない群の方が脂肪乳剤を投与した群よりも糖質負荷が多い為かトリグリセリドは高値となっている¹³⁾。
高トリグリセリド血症に関しては、 実際にどの値であると合併症のリスクがあるのかといったデータは乏しい。 つまりどの程度が介入の対象となるかは不明である。
同種移植後にはステロイドなどの影響もあり、 脂肪乳剤を投与していない状況でも高トリグリセリド血症となっているような場合もある。 必要に応じてω3系脂肪酸 (エパデール) やフィブラート系 (ベザトール®) などの薬剤で対応するケースもある。
空腹時血清中性脂肪値が350~500mg/dLまで上昇した場合には脂肪乳剤の減量、 それ以上となる場合には中止することが推奨される。 ただし、 高値が続き、 経口摂取が限定的な期間が長い場合には、 必須脂肪酸の補充目的に少量を投与する方が良いと考えられる。
中性脂肪値が高いことが予後不良とするような報告はなく、 今後の検討課題である。
血糖コントロールが悪いと、 脂肪分解が起こり、 血清中性脂肪値が上昇してしまう為、 脂肪乳剤が投与しにくくなってしまう。 その為、 適切な血糖コントロールを行うことが脂肪乳剤使用時には望ましいと考えられる。
脂肪乳剤には10%と20%のものがあるが、 基本的には20%が勧められる。 これは脂肪乳剤に含まれるリン脂質の割合が20%の方が低い為である¹⁴⁾。 20%のものには50~250mLまで製剤があるので、 その量で調整することが望ましい。
脂肪乳剤を使用する際は看護師の点滴交換等の手間が増えることにもなるので、 少量の脂肪乳剤を連日投与するよりは、 隔日や週数回投与などにし、 投与頻度を減らすのも一つのポイントである。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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