【消化器】ASCO 2024の注目演題は?
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HOKUTO編集部

4ヶ月前

【消化器】ASCO 2024の注目演題は?

【消化器】ASCO 2024の注目演題は?
米国臨床腫瘍学会 (ASCO 2024) の消化器癌領域における注目演題について、国立がん研究センター中央病院頭頸部・食道内科/消化管内科の山本駿先生にご解説いただきました。

はじめに

ASCOは世界最大規模の臨床腫瘍の学会であり、 毎年本会では新しい標準治療に繋がりうる発表が数多くなされる。 今回も"practice change"に繋がった演題や今後の治療開発に重要な結果を示した演題を中心に、 HOKUTOのユーザーの皆様とその内容を共有したいと思う。

本稿掲載の注目疾患

1. 切除可能食道癌
2. 切除不能HER2陰性胃癌
3. 進行大腸癌

切除可能食道癌

未解決だった腺癌への最適な周術期治療

本邦では、 切除可能な局所進行食道癌に対する最適な周術期治療は、 JCOG1109試験の結果から、 ドセタキセル+シスプラチン+フルオロウラシル (5-FU) 併用 (DCF) 療法である。 しかし、 腺癌の比率が高い欧米ではCROSS試験の結果から、 術前化学放射線療法とされている。

ただし食道腺癌に関しては、 胃癌を中心に開発されたFLOT4試験の結果から、 周術期化学療法 (FLOT*) も標準治療の1つと考えられており、 切除可能な食道腺癌に対する最適な周術期治療はCROSS試験に基づく術前化学放射線療法か、 それとも周術期FLOT療法であるか、 結論は出ていなかった。

そのような中、 ASCO 2024ではその疑問に真っ向から解答を与えうる第Ⅲ相多施設共同前向き無作為化比較試験ESOPECの結果が公表され、 今後の治療開発の動向に大きく影響を与える結果であった。

*術前化学療法として5-FU+ロイコボリン+オキサリプラチン+ドセタキセル (FLOT) を8週毎に4サイクル投与→手術→術後化学療法FLOTを8週毎に4サイクル投与

ESOPEC:切除可能局所進行食道腺癌への周術期FLOT、 術前CRTに比べOS改善

概要

ESOPEC試験では、 切除可能な食道腺癌を対象に、 FLOT4試験に基づく周術期FLOT療法+根治手術と、 CROSS試験に基づく術前化学放射線療法+根治手術の治療戦略が直接比較された。

主要評価項目は全生存期間 (OS)、 副次評価項目は無増悪生存期間 (PFS)、 術後病理学的病期、 手術関連有害事象等が設定された。

試験の結果

患者背景に関しては両群で概ねバランスが取れていた。

主要評価項目のITT集団における3年OS率は、 FLOT群で57.4%、 CROSS群で50.7%であり、 OS中央値 (95%CI) は、 FLOT群で66ヵ月(36ヵ月-NE) ヵ月、 CROSS群で37ヵ月 (28-43ヵ月) と報告され、 FLOT群のCROSS群に対する優越性が証明された(HR 0.70 [95%CI 0.53-0.92]、 p=0.012)。 なおper protocol集団におけるFLOT療法の優越性も証明された (HR 0.72 [0.54-0.96] )。

また、 ITT集団における3年PFS率はFLOT群で51.6%、 CROSS群で35.0%。 PFS中央値 (95%CI) は、 FLOT群で38ヵ月 (21ヵ月-NE)、 CROSS群で16ヵ月 (12-22ヵ月) と報告され、 こちらもFLOT群で良好であった (HR 0.66 [0.51-0.85]、 p=0.001)。 なお、 病理学的完全奏効割合はFLOT群で16.8%、 CROSS群で10.0%、 Clavien-Dindo分類のGradeⅢ/Ⅳの手術関連有害事象の発生割合はFLOT群で29.8%、 CROSS群で27.7%と報告された。

小活

今回のASCO 2024において、 消化管癌領域で最も注目度の高かった演題がESOPEC試験である。 結果はFLOT4試験に基づく周術期FLOT療法と根治手術の治療戦略に軍配が上がり、 JCOG1109試験の結果と合わせ、 食道癌の周術期治療においては組織型を問わずタキサン系+プラチナ系+5-FU系の3剤併用療法の有効性が証明された。

ただし本邦では、 食道扁平上皮癌に関してはDCF療法のデータは存在するが、 FLOT療法のデータはいまだ存在せず、 現在慶應義塾大学病院を中心に進められている術前FLOT療法の第II相試験の結果が非常に重要になってくるだろう。 なおESOPEC試験発表後のディスカッションでは、 CROSS群でCheckMate 577試験に基づく術後ニボルマブ療法がnon-pCR例に対し投与されていない点が挙げられていたが、 同試験のOSはいまだに報告されておらず、 その結果次第と考えられる。

本試験の結果から、 今後欧米では食道癌の周術期治療としてFLOT療法の頻度が上がると考えられ、 同時に現在進行中の第Ⅲ相二重盲検プラセボ対照国際多施設共同無作為化比較試験MATTERHORNに代表される、 周術期FLOT療法を軸にした免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の開発の動向も重要になると考えられる。


切除不能HER2陰性胃癌

抗TIGIT抗体併用療法の有効性が示唆

現在、 切除不能な進行胃癌に対する標準的な1次治療は、 CheckMate 649試験KEYNOTE-859試験の結果から、 ICIと2剤併用化学療法が標準治療とされており、 CLDN18.2陽性であればSPOTLIGHT試験およびGLOW試験の結果からゾルベツキシマブと2剤併用化学療法も選択肢とされている。

しかしこれらの有効性はいまだに限定的であり、 さらなる治療効果を得るため、 第III相多施設共同無作為化比較試験ATTRACTION-6のようにICIをさらに上乗せする試験や、 第III相多施設共同無作為化比較試験LEAP-015のように分子標的薬をさらに上乗せする試験が進行中である。

今回、 "practice change"となる結果はなかったが、 抗TIGIT抗体に関する重要な報告が第II相多コホート多アーム試験EDGE-Gastric Arm 1で示されたので共有する。

EDGE-Gastric Arm 1:domvanalimab+ zimberelimab+FOLFOXの忍容性は良好

概要

EDGE-Gastric Arm 1では、 切除不能な未治療HER2陰性進行胃癌を対象に、 抗TIGIT抗体domvanalimabと抗PD-1抗体zimberelimab、 FOLFOX併用療法の有効性が検討された。 主要評価項目は安全性および客観的奏効割合 (ORR) だった。

試験の結果

安全性に関しては、 ICIと関連があるGrade 3以上の有害事象の発現は15%、 オキサリプラチン+レボホリナート+5-FU併用 (FOLFOX) 療法と関連があるGrade 3以上の有害事象の発現は59%と報告された。

もう1つの主要評価項目であるORRに関しては、 全体で59%、 PD-L1陽性例で 69%、 PD-L1陰性例で50%と報告された。 また、 PFS中央値(95%CI)は12.9ヵ月 (9.8-13.8ヵ月)、 PD-L1陽性例では13.8ヵ月 (11.3ヵ月-NE)、 PD-L1陰性例では11.3ヵ月 (5.5-13.8ヵ月) と報告された。

小活

以前より胃癌を対象に多数の治療開発が行われてきたが、 有効性を証明した薬剤は非常に限られていた。 しかしICI開発の成功を契機に、 現在多くの臨床試験が進行している。 その中でも抗TIGIT抗体は注目されており、 本試験の結果から薬剤の特徴を考えると、 ORRを極端に上昇させる訳ではないが、 病勢進行割合を減らし長期奏効を得る可能性を秘めていると考えられる。

すでに食道癌においては、 別の抗TIGIT抗体tiragolumabの有効性がSKYSCRAPER-08試験で証明されている。 domvanalimabに関しては現在第III相国際共同オープンラベル無作為化比較試験STAR-221が進行中であり、 同試験の結果次第で、 胃癌への実臨床への導入が決まると考えられる。

進行大腸癌

化学療法への肝移植上乗せの有用性は?

切除不能な進行大腸癌の予後は化学療法の進歩とともに延長されているが、 根治切除不能な肝転移を有する場合の局所療法の意義に関してはいまだ明らかでない。 そのような中、 肝移植を行うことで予後の改善を図る治療戦略の開発が進められ、 その有用性が第III相無作為化比較試験TRANSMETで検証された。

TRANSMET:肝転移あり進行大腸癌に肝移植+化学療法でOS改善

概要

TRANSMET試験では、 肝転移のみを有する65歳以下のBRAF遺伝子変異陰性進行大腸癌を対象に、 化学療法+肝移植群と化学療法群が直接比較された。 主要評価項目はOSが設定され、 副次評価項目はPFSや再発パターンが設定された。

試験の結果

患者背景は、 年齢や性別、 原発部位、 RAS遺伝子変異等、 両群間で概ねバランスが取れていた。

主要評価項目のITT集団における5年OS率は、 化学療法+肝移植群で57%、 化学療法群で13%と報告され、 化学療法+肝移植群の優越性が証明された (HR0.37 [95%CI 0.21-0.65]、 p=0.0003)。 またper protocol集団における5年OS率は、 化学療法+肝移植群で73%、 化学療法群で9%と報告され、 こちらでも肝移植群の良好な結果が報告された(HR 0.16 [同0.07-0.33]、 p<0.0001)。

なおper protocol集団における3年/5年PFS率は、 化学療法+肝移植群で33/20%、 化学療法群で4%/0%と報告され、 こちらも肝移植群の良好な結果が報告された (HR 0.34 [同0.20-0.57]、 p<0.0001)。 再発パターンとして、 肺転移や多発転移、 リンパ節転移等を来した症例を肝移植群で72%に認めたが、 46%の症例で局所治療を実施し、 50ヵ月フォローアップの段階で42%がcancer freeの状態であった。

小活

緩和的化学療法の対象例に積極的な肝移植を行い、 OSの延長を示した非常に重要な試験である。 5年OS率が50%を越えるのは非常に魅力的であるが、 本邦でこのエビデンスをそのまま外挿するには、 臓器移植体制等の現状を考慮すると難しいと考えられる。

最後に

ASCO 2024における消化管癌領域では、 アップデート解析が多かった。 しかし、 その中でも長年の疑問を第III相試験で解明するような研究も報告されており、 非常に注目度は高かった。 次に大きな学会は秋に予定されている欧州臨床腫瘍学会 (ESMO 2024) であり、 また新しいエビデンスに出会えることを期待している。

解説医師

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【ESOPEC】試験結果まとめ

【SKYSCRAPER-08】試験結果まとめ

【術後評価】Clavien-Dindo分類

(JCOG術後合併症規準)

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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