本稿は本年2月23日に開催された「亀田総合病院内科グランドセミナー2023」にて行われた講演を基に作成したものとなります。 多くの先生の臨床の参考となれば幸いです。
講演情報
講師:白鳥俊康先生
亀田総合病院消化器内科
上部消化管出血治療のポイント
本稿では初期研修医が消化管の出血に遭遇した際の対応について、 どのようなポイントの注目すべきか、 初期対応はどうすべきか、 どのように止血すべきかについて解説します。
- 病状や検査から出血点や出血の状況をを把握することが重要。
- 抗血栓薬への対応については、 抗血小板薬、 抗凝固薬で対応が異なるので注意が必要。
- 内視鏡治療は基本的に24時間以内であればよいとされるが、 胃食道静脈瘤の場合は早期対応 (12時間以内) が求められることも。
当直医は、 どう対応したら良いか―
まず最初に考えるべきポイント
- 本当に消化管出血なのか?
- どこからの出血?静脈瘤出血の可能性は?
- 緊急性は?処置のタイミングは?
病状・病歴から考える
海外のガイドラインではNGTに否定的な意見もあり、 静脈瘤出血例に対しては気を付けるべき
全上部消化管出血症例の14%で血便あり。 特に十二指腸に病変のある症例が多い。 重症例や予後不良例が多い。
- 基礎疾患 (肝硬変など) の有無
- 抗血栓薬使用の有無も重要
血液・画像検査
血液検査
Hb低下、 BUN/Cr開大、 血小板・PT-INR・Bill
画像検査
造影CT:感度、 85.2%、 特異度:92.1%。 低侵襲の検査であり、 有用なモダリティ
<CTのチェックにおいて注意すべきポイント>
- 造影剤の血管外漏出像 (extravasation) は?
- 胃内の状況は? (残渣多量がどうか)
- 残渣多量だと上部内視鏡処置のリスクが高くなるため
- 血液の存在もCTにより確認可能
- どのあたりから出血していそうか?
リスクのスコアリング評価
上部消化管出血のリスクに関しては以下のようなスコアリングを用いて評価すると良い。
🔢Glasgow-Blatchfordスコア(GBS)
🔢Rockallスコア
🔢AIMS65スコア
GBSは入院管理の必要性、 死亡のリスクを最も正確に反映する。 GBS≦1では、 入院の必要性は低い。
上部消化管出血の初期対応
補液・輸血
- 補液
- 量・内容は?⇒エビデンスがない
- 輸血
- 心疾患なし:Hb≦7で輸血の適応
- Hb 7~9を目指す
- 心疾患あり:Hb≦8で輸血の適応
- Hb 10以上を目指す
※再出血や死亡リスクを上げる可能性があり、 過剰な輸血は控えるべきである。
プロトンポンプ阻害薬 (PPI)
- 高容量のPPI投与で再出血や死亡率が低くなる? (ただし、 日本では適応外使用)
- 通常量PPI投与のエビデンスは乏しい
※PPI投与で内視鏡処置を遅らせるべきではない。
抗血栓薬への対応
⇒バイアスピリンは可能な限り継続 (DAPTではバイアスピリン単剤のみ継続されることが多い)。
⇒一時的な休薬はやむを得ない。
- 無暗な拮抗は避ける (バイタル不安定な症例では拮抗すべきだが、 そうでない症例では避けるべき)。
- 抗血小板薬、 抗凝固薬ともに止血が確認できたら早期に再開すべき。
内視鏡処置のタイミング
- 6時間以内、 12時間以内で死亡率や再出血等に差は無い。
- ESGAガイドライン:24時間以内の内視鏡処置が推奨されている。
- 翌日の日勤帯で、 マンパワーが確保されている状況で行うのがよい。
<注意すべきポイント>
- バイタルサインが不安定な症例は除外されていることが多い。
- 胃食道静脈瘤出血症例についてはn数が少ないので反映できるかは不明。
- 内視鏡処置前にバイタルサインの安定化を優先させることが重要。
胃食道静脈瘤出血症例ではどうするか
- 早期 (12時間以内) に止血を行ったほうが良い。
- 輸液:乳酸リンゲル液が妥当
- テルリプレシン (血管収縮薬) ・オクトレオチド・ソマトスタチンの使用
⇒再出血率の低下
⇒感染による再出血率増加の予防
上部消化管出血の止血
一般的な消化管出血の止血方法
- 局注法
- 純エタノール局注、 高張食塩水エピネフリン (HSE) 局注
- 機械的止血
- クリップ止血、 内視鏡結紮術 (EBL)
- 熱凝固止血
- 止血鉗子、 アルゴンプラズマ凝固 (APC)、 ヒーターブロープ
- 薬剤散布
- トロンビン、 アルギン酸ナトリウム、 ピュアスタット
ファーストチョイスは機械的止血か熱凝固止血が用いられる。 いずれも効果に大きな差はないが、 止血鉗子による凝固止血の効果が高いという報告もある。 ESGEでは止血鉗子が推奨されている。 症例に応じて手技者が適宜選択して止血を行い、 それでも止まらない場合は血管塞栓(TAE)、 外科的加療も選択肢になる。
静脈瘤に関する止血
<食道>
- 基本:内視鏡的静脈瘤結紮療法 (EVL)
- 出血が止まらない場合:経頸静脈肝内門脈大循環シャント術 (TIPS)
- 内視鏡処置ができない場合:S-Bチューブの一時的留置
<胃>
- 内視鏡的硬化療法 (ヒストアクリルを用いる場合が多い)
静脈瘤に対する待機的治療
静脈瘤に造影剤、 硬化剤を注入して病変部の血液の流れを止める効果療法が用いられることが多い。
<食道>
- 内視鏡的静脈瘤結紮術 (EVL)
- 静脈瘤硬化療法 (EIS、 EISL)
※ EVL・EIS (L) 後にアルゴンプラズマ凝固法 (APC) による地固め療法を行うことも多い。
<胃>
※保険適応外であり、 一部の施設のみでしか行われていないが、 超音波内視鏡 (EUS) ガイド下静脈瘤治療を用いることもある。
講師:白鳥俊康先生
亀田総合病院消化器内科