黄色ブドウ球菌菌血症患者における血行性椎体炎:3,165例の大規模研究より
著者

メイヨークリニック感染症科 松尾貴公

24日前

黄色ブドウ球菌菌血症患者における血行性椎体炎:3,165例の大規模研究より

Risk Factors and Outcomes of Hematogenous Vertebral Osteomyelitis in Patients With Staphylococcus aureus Bacteremia

Clin Infect Dis. 2023 Nov 11;77(9):1226-1233. PMID: 37747828.
黄色ブドウ球菌菌血症患者における血行性椎体炎:3,165例の大規模研究より

研究デザインと研究対象

  • 1995~2019年において、 デューク大学医療システムで前向きに登録された3,165例のSAB患者を対象とした研究である。
  • HVOMは画像診断または微生物学的診断に基づいて確定された。
  • 臨床的および微生物的要因とHVOMリスクとの関連を、 多変量ロジスティック回帰分析で評価した。

主な結果

  • 合計3,165例のSAB患者のうち、 18歳以上の127例 (4%) が椎体炎を合併していた。
  • 腰椎が最も頻度が高い感染部位であった (44%)。
  • 硬膜外膿瘍 (54%) や腸腰筋膿瘍 (27%) の頻度が高く、 ドレナージを要する症例が多かった。
  • 90日死亡率 (14%)、 12ヵ月死亡率(22%)ともにHVOM患者で多く見られた。
  • 持続的菌血症、 静注薬物の使用、 感染経路不明は独立したHVOMのリスク因子であった。
  • 細菌学的な遺伝子型とHVOMあるいは臨床的予後との関連はみられなかった。
  • SABの再発はHVOM患者のうち12/127例 (9%) でみられた。

黄色ブドウ球菌菌血症患者における血行性椎体炎:3,165例の大規模研究より

化膿性椎体炎の症例において黄色ブドウ球菌菌血症を合併する状況は少なくなく、 再発率や合併症をきたすことが多いことから、 臨床的に適切なマネジメントは非常に重要な課題です。

本論文は化膿性椎体炎のうち、 特に黄色ブドウ球菌菌血症の有無で臨床的なリスクファクターや治療アプローチ、 予後に関して調査した重要な論文です。

注目すべきは、 約1/4の患者さんが感染性心内膜炎を有していたことから、 特に持続的菌血症をきたした場合や感染経路が不明な場合には積極的な精査が検討されます。

一般的に化膿性椎体炎に対しては、 米国感染症学会(IDSA)ガイドライン¹⁾では最低6週間の治療、 その後の韓国からの研究²⁾では高リスクの患者 (MRSA、 透析患者、 ドレナージされていない膿瘍) は最低8週間の治療の必要性が提唱されています。 中でも黄色ブドウ球菌菌血症合併の化膿性椎体炎は米国筋骨格系感染症学会 (Musculoskeletal Infection Society; MSIS) でたびたび議論になるテーマであり、 最適な治療方針と期間に関しての根拠に乏しいのが現実です。 患者ごとのリスクや重症度、 フォローアップでの症状や所見に基づき、 個別に慎重に判断する必要があります。

<出典>
1) Clin Infect Dis. 2015 Sep 15;61(6):e26-46.
2) Clin Infect Dis. 2016 May 15;62(10):1262-1269.

監修医師 : 松尾 貴公先生
2011年 長崎大学医学部卒業、 聖路加国際病院初期研修・内科専門研修・内科チーフレジデント・感染症科フェロー・医員を経て2021年 テキサス大学ヒューストン校/MDアンダーソンがんセンターにて臨床留学。 2022年 同チーフフェロー、 2023年 同アドバンストフェロー、 2024年よりメイヨークリニック感染症科の整形外科感染症フェローとして骨関節感染症に特化したトレーニングを行い更なる研鑽を積んでいる。 また、 日本チーフレジデント協会 (JACRA) 世話人を経て、 現在日本感染症教育研究会 (IDATEN) KANSEN JOURNAL編集委員・米国感染症学会 (IDSA) 感染症教育推進委員。 2024年2月よりFebrile Podcast ID Digital Institute (IDDI)のメンバーも務めており、 デジタルデバイスを活用した新しい感染症教育に積極的に取り組んでいる。
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