寄稿ライター
4ヶ月前
患者さんに対して怒りがこみあげてくること、 ありませんか?連載 「患者さんにどう伝えますか?」 7回目のテーマは前回の続編 「怒りをどうコントロールするか?~後編~」です。
前回記事はコチラ。
「怒りのコントロールなんてできるものではない」 と思うかもしれません。
医師のなかには、 患者さんだけにではなく、 看護師や薬剤師、 検査技師などメディカルスタッフに怒りをぶつける人がいます。
自分の診療をすすめるために、 指示したことを遂行してくれなかったり、 検査がなかなか入らなかったりした場合、 イラっとしてしまう経験は誰にもあるかと思います。
そんな時、 怒りを相手にぶつけてしまうと、 叱られたメディカルスタッフは、 嫌な思いをするでしょう。 ただ、 叱ったあなたも嫌な思いをします。
その場は、 従ってくれるかもしれませんが、 今後、 そのメディカルスタッフは叱られないように最低限のことはするでしょうけど、 あなたに嫌な感情を抱くようになります。 なるべく近寄らないようにと、 避けられるかもしれません。
私は腫瘍内科医で、 抗がん剤を扱う仕事をしています。 抗がん剤は劇薬で、 ちょっとしたオーダーミスで大きな医療事故につながることがあります。
抗がん剤の過量投与事故で患者さんが亡くなることは、 電子カルテ、 電子オーダーの時代となった今でこそ少なくなりました。 ただ、 一昔前、 紙でオーダーしていた頃は、 過量投与事故が頻繁に起きていました。
私は、 紙カルテ時代、 二度ほど過量投与事故になりそうになったケースがありました。 しかし、 薬剤師さんが気づいてくれたおかげで、 事故を防げた経験があります。
当時を振り返ります。 紙カルテだったのはレジデント時代。 当時の仕事は、 抗がん剤の点滴調整 (現在は薬剤師さんがやってくれますが、 昔は医師の仕事でした)、 検査結果をカルテに貼ること (これも医師の仕事でした) などがかなり忙しく、 午前中はこれらの雑用でほぼつぶれてしまっていました。
その上で、 抗がん剤のオーダーは、 伝票に手書きをするのですが、 この作業が大変でした。
「抗がん剤を〇mg、 生理食塩水〇mlに溶解し、 〇分で点滴する」
これらの詳細なオーダーを手書きでするので、 間違いも生じます。 抗がん剤のオーダーは、 小数点の位置を少し間違えただけでも過量投与になってしまいます。
私は文字が下手くそで、 手書きのオーダーを解読する薬剤師さんも大変であったであろうと思います。 幸いにして、 普段から仲良くしていた薬剤師さんから 「先生、 間違ってるよ~~」 と指摘を受けることができました。
抗がん剤の過量投与は、 命にもつながります。 冷や汗ものでしたが、 レジデント時代にこのような経験をしたことで、 メディカルスタッフと良いコミュニケーションをとることの大切さを身をもって実感しました。
現代では、 チーム医療をうまく構築することも、 医師の力量、 プロフェッショナリズムの一つだと思います。 円滑なチーム医療は、 患者さんの予後を改善させるといったエビデンスもあります¹⁾ 。
では、 内側から湧き上がってくる感情をどのようにコントロールしていけばよいでしょうか?
「チーム医療にコミュニケーションが大事とわかっているのに、 ついつい怒ってしまう」
「患者さんとのコミュニケーションが、 医療をうまくすすめるためにも大切とわかっているのに、 ついつい怒ってしまう」
という人も多いとも思います。 実は、 上記のように自分自身の感情に気づいている段階であれば、 怒りのコントロールは可能なのです。
例えば、 非常に高名な患者さんの場合、 同じように怒ったでしょうか?メディカルスタッフが看護師や薬剤師ではなく、 自分の上司や院長だったら、 感情にまかせて、 怒っているでしょうか?
「いや、 そんなことは絶対しません」 と言われるでしょう。
つまり、 感情を表出するのは、 相手を選んでいるのです。 自分で相手を選んで、 コントロールして怒っているのにすぎないことに気がついてほしいです。
このように、 感情は自然発生するものでもなく、 相手が悪いわけでもなく、 自分で選び、 コントロールして、 発生しているのです。
チーム医療で感情をコントロールする一つの方策は、 第三者に立ち会ってもらうことです。 第三者はどちらかの肩をもつのではなく、 客観的に対応してくれる人がよいでしょう。
対患者さんであれば看護師さん、 対メディカルスタッフであれば別スタッフに立ち会ってもらうことがいいでしょうか。 このように工夫することで、 職場内での、 感情のぶつかり合いを防ぐ一つの方策になるのではないかと思います。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。