寄稿ライター
5ヶ月前
患者さんに対して怒りがこみあげてくること、 ありませんか?連載 「患者さんにどう伝えますか?」 6回目のテーマは 「怒りをどうコントロールするか?〜前編〜」
前回 (標準治療を拒否する患者さんにどう対応する?) もご紹介しましたが、 自分自身が勧める治療を拒否する患者さんに対し、 「治療やらなかったら、 死んじゃうよ。 うちでは診られない」 と言う医師がいました。
私が研修医の時、 指示に従わない患者さんを怒鳴りつけていた上級医がいました。
このような医師は、 昭和の時代にはかなりいたと思います。 最近では少なくなった印象ですが、 医師の言うことを聞いてくれないばかりか、 抵抗したり反抗したりする患者さんもいます。 そんな時は怒りの気持ちがわいてくることは少なからずあると思いますが、 どう対応したらよいでしょうか?
まず、 患者さんに対して 「怒る」 というコミュニケーションは勧められるものではありません。 怒りはあらわにはしないけれど、 不機嫌なまま診察をしてしまうことも同様です。
怒りという感情はとても強く、 ぶつけられた相手の心を傷つけるナイフのようなものです。 医師から怒られた患者さんは 「恐ろしい」 「冷たい」 「逃げたい」 といった感情を抱くのではないでしょうか。
医師から怒られた患者さんは、 素直に医師の指示に従うようになるでしょうか?医師に叱られたから反省して前向きになるかというと、 決してそうではなく、
という感じになります。 言い方は悪いですが、 恐怖 (脅迫) で相手を支配し、 治療に従わせようとすることは医師が知らず知らずにやってしまうことです。
そうすると、 患者さんは 「医師が怖くて質問できない」 「医師が目を見て話すことがなく、 機械的にしか話をしてくれない」 などのような心理に陥ります。 私ががん患者さんのセカンドオピニオンでよくお聞きすることです。
日本の勤務医が過酷な勤務状況で、 患者さんの話を丁寧に聴き、 優しく診察できないことがあることは同業者として理解しています。 このような状況は決して望ましいことではないので、 少しでも改善できるようにできればと思います。
がん患者の例ですが、 化学療法の副作用をしっかりモニターすることで、 生存率向上させるという無作為化比較試験¹⁾の報告があります。 副作用を早くモニターした群では、 重篤な有害事象に早く対応することができ、 驚くべきことに生存率まで改善したというのです。
化学療法を受けている患者さんは、 ともすると、 医療者に遠慮をして、 副作用を我慢してしまうケースも多いです。 それはつまり、 取り返しのつかない重篤な副作用を見逃すことにもつながるということです。 この臨床試験の結果から、 いかに患者さんに副作用 (に限らず、 症状や気になる点など) をうまく伝えてもらうことが大切かわかると思います。
私は普段から、 化学療法を受けているがん患者さんには、 「いつでも気になる症状があったら、 遠慮せず言ってください」 などとお伝えするようにしています。
糖尿病のケースも同様です。
2型糖尿病は血糖を抑えるために、 食事のコントロールが大切ですが、 結構難しいです。 そんな時、 医師が怒って問い詰めるとどうなるでしょう。 前向きに食事療法ができるようになる患者はごくわずかで、 大半は落ち込み、 自分を責めるようになります。
糖尿病患者さんは、 うつ病を合併していることが多く、 心理的介入が血糖コントロールを改善させるという無作為化試験のメタ解析も報告²⁾されています。 つまり、 叱ることは心理的負荷を増やし、 むしろ血糖コントロールを悪化させてしまうことにもなりかねないのです。
では、 臨床現場で怒りの感情をどうコントロールしていけばよいでしょうか?最近では、 アンガーマネジメントという言葉も医療界で流行っていますが、 ふつふつとわいてくる怒りをコントロールするのは簡単ではありません。
医療現場でのアンガーマネジメントでまず大切なのは 「自分の感情を否定しないこと、 怒りという感情に気づくこと」 です。 患者さんのために一生懸命になった結果、 怒りがわいてくることもあり、 怒りの感情そのものが悪いのではありません。
ただ、 怒りを患者さんにぶつけることは、 患者さんにとって良いアウトカムをもたらす結果にはならないことを知っておいてほしいです。
次に、 診療の前には、 なるべく機嫌良くしていることでしょうか。 医師の仕事は決して楽しい現場ではありません。 患者さんの病気は決して良い結果だけをたどるわけではありません。 私生活がいつもHappyであるとは限りません。
ただ、 イライラした気持ち、 不機嫌な気持ちは患者さんに伝わってしまいます。 診察の前には、 一度リセットして気持ちを切り替えた方がいいでしょう。 おいしいものを食べてもいいですね。 それはきっと患者さんだけでなく、 あなたをも幸せにすることになることにつながります。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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