HOKUTO編集部
1年前
薬物療法に効果を示した (非抵抗性) de novo Ⅳ期の乳癌に対して、 原発巣切除を行うと予後は改善するのか-。 この疑問に対し、 国内で行われた前向き研究JCOG1017試験の結果から、 OSは有意に延長されないことが示された。 岡山大学乳腺内分泌外科長の枝園忠彦氏が6月29日〜7月1日に開催された第31回日本乳癌学会で発表した。 同試験の結果は米国臨床腫瘍学会(ASCO 2023)でも発表されたが、 国内の学会では今回が初めてとなった。
薬物療法および画像診断の進歩により、 切除可能な原発巣とコントロール可能な転移病巣を持つⅣ期の患者数が増加している。
de novo Ⅳ期の乳癌患者に対する原発巣切除の効果については、 これまで4件の前向き研究において検証されているものの、 これらの研究結果では一貫性は認められておらず、 依然として議論の余地があるとされていた。
日本臨床腫瘍研究グループ (JCOG) により実施されたJCOG1017試験では、 de novo Ⅳ期の乳癌患者に対する原発巣切除の意義について、 全身療法単独を対照に検証された。
de novo Ⅳ期の乳癌患者を一次登録し、 ER陽性/陰性の状況および生命を脅かす転移の有無によりサブタイプ別に当時最適とされた初期薬物療法を3カ月間行った上で効果判定により病勢進行(PD)を認めない患者が二次登録された。
ER陽性かつ生命を脅かす転移なし
ER陰性かつ生命を脅かす転移あり
2011年5月~2018年5月の7年間に登録された患者は、 1:1でランダムに割り付けられた。
試験仮説 (2010年当時 )で予測されたOS中央値
両群(薬物療法単独群、 原発巣切除群)で同様
OS中央値(95%CI)は有意差認めず
HR 0.587、 95%CI 0.686-1.072、 P=0.3129
5年OS率は以下の通り
OSのサブグループ解析は以下の通り
閉経前(HR 1.082)、 転移臓器が1臓器のみ(HR 1.174)のサブグループでのみ、 原発巣切除群で良好な傾向を認めた。
無局所再発生存率(LRFS)および無増悪生存率(PFS)は原発巣切除により有意に改善された。
LFRS中央値、 5年LFRSで有意差あり
HR 0.415、 95%CI 0.327-0.527、 P<0.0001
PFS中央値、 5年PFSで有意差あり
HR 0.684、 95%CI 0.555-0.844、 P=0.0004
ただし、 原発巣切除群における切除断端の有無別に生存期間をみると、 断端陽性例(22例) は陰性例(151例)に比べて予後が不良であった(P=0.012)。
3カ月後の遠隔転移無増悪率で有意差あり
P=0.0014 遠隔転移は原発巣切除により悪化する可能性がある。
原発巣切除は薬物療法に感受性を持つde novo Ⅳ期乳癌患者においてOSを有意に延長できなかった。
生存期間延長を目的とした原発巣切除はすべてのde novo Ⅳ期乳癌患者には推奨されないが、 転移臓器が限られた患者では治療選択肢になり得る。
なお、 現在は同試験に続く臨床試験として、 オリゴ転移を有する進行乳癌に対する根治的局所療法追加の意義を検証するランダム化比較試験OLIGAMI trial(JCOG 2110)が枝園氏を研究代表者として進行中である。 今夏に登録を開始するところだという。
本試験は乳癌領域において日本で初めて行われた外科手技の前向き比較試験である。
今後日本からもこういった価値あるエビデンスが創出できることや、 世界でほぼ同時に同様の臨床的疑問を解決しようとする試験が行われており、 その中で日本の乳癌診療のレベルの高さも示すことができた。
引き続きOLIGAMI試験を通して、 信頼性の高いエビデンスを日本から創出していきたい。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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