Beyond the Evidence
2ヶ月前
未治療切除不能進行・再発胃癌の複数のバイオマーカー同時検査は日常診療で実施可能か?
未治療HER2陰性Claudin18.2 (CLDN18.2) 陽性の切除不能進行・再発胃癌に対して、 2024年3月に抗CLDN18.2抗体ゾルベツキシマブが承認されたと同時にCLDN18のコンパニオン診断薬も承認された。 これにより、 胃癌薬物療法において、 治療選択に有用なバイオマーカーは、 HER2、 MMR、 PD-L1、 CLDN18の4つとなった。
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一方、 複数のバイオマーカー検査が日常診療において実現可能かどうかは、 新たな課題である。 先立って、 日本胃癌学会から 「切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き 第1版」¹⁾が出され、 バイオマーカー検査の必要性が記載されているので合わせてご覧頂きたい。
国立がん研究センター東病院では、 CLDN18を含む複数の免疫染色を同時に実施する研究を進めており、 同意が得られた患者さんに関して全例で施行してきた²⁾。
2022年4月~23年10月に未治療切除不能進行・再発胃癌で、 複数のバイオマーカー同時検査を受け、 その後当院で薬物療法を施行された患者 (203例) が対象となった。 この中には、 時に初回内視鏡生検で癌細胞が検出されないこともある4型胃癌も26% (54例) 含まれていた。
バイオマーカーとしては、 HER2、 MMR (MLH1、 MSH2、 MSH6、 PMS2)、 PD-L1、 CLDN18のほか、 EBER-ISH、 EGFR、 FGFR2、 METの8つのマーカーを同時測定した。 93% (188例) において生検検体が用いられた。
初回検査の成功率は98%で、 再検査や他院からの標本取り寄せにより最終的には全例でバイオマーカー検査を行うことができた。 4型胃癌では、 初回検査の成功率が94%と、 それ以外の99%と比較してやや低かった。
検査の依頼から、 電子カルテ上で結果が確認できるまでに要した時間 (ターンアラウンドタイム) は中央値7日で、 14日以内には92%の症例で結果が得られていた。 この結果、 88%の症例で1次治療前にバイオマーカーの結果が得られ、 治療薬選択の参考にすることができた。
当院でのデータから、 日常診療における複数のバイオマーカー同時測定は実現可能といえるが、 一般化が難しい側面があることは否めない。 当院での高い忍容性の背景には国立がん研究センターという専門病院であるだけでなく、 有用性と必要性を理解し、 支えるチーム医療体制があることを強調したい。
内視鏡チームとの連携 当院では、 初診後速やかに内視鏡検査を行うことができる。 これには内視鏡チームの先生方の協力が不可欠である。
地域病院との連携 紹介頂いた施設にも検体の送付をお願いし、 診断の比較検討だけでなく、 治験参加のための利用や当院で十分な癌細胞が得られなかった場合にはバイオマーカーの測定にも役立てている。
病理医との連携 診断を行う病理の先生には癌の診断のみならず、 免疫染色の判定をお願いすることになるが、 当院では検査の有用性と重要性を理解頂き、 快く引き受けて頂いている。
患者・家族との連携 当然ながら、 研究にご参加頂いた患者さんやご家族の理解と協力も不可欠である。
日本胃癌学会からの公式にステートメントが出たことは、 検査体制が未整備の施設にとって、 実装を進める上での追い風となると思うが、 施設の担う役割によっては全施設での実現は難しいかもしれない。
外注検査に頼らざるを得ない場合には、 ターンアラウンドタイムはより長くなり、 治療前にバイオマーカー結果を揃えることが難しくなるだろう。
日本胃癌学会により、 施設認定制度がスタートしているが、 薬物療法においても地域での助け合いはより重要だろう。 胃癌薬物療法において、 バイオマーカーに基づく治療選択が必要不可欠であることは明白であり、 患者さんが不利益を被らないよう、 院内外でのチーム医療体制の構築こそがますます重要となっている。
総合力により、 バイオマーカー検査の実現性を最大化し、 全ての患者さんが質の高い治療が受けられるようになることを願う
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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