外傷後の骨折関連感染症、 抗菌薬治療の最適な期間は? (MMUSKIT Study)
著者

メイヨークリニック感染症科 松尾貴公

1ヶ月前

外傷後の骨折関連感染症、 抗菌薬治療の最適な期間は? (MMUSKIT Study)

Multisite Study of the Management of Musculoskeletal Infection After Trauma: The MMUSKIT Study

Open Forum Infect Dis. 2024 May 6;11(6):ofae262.
外傷後の骨折関連感染症、 抗菌薬治療の最適な期間は? (MMUSKIT Study)

研究方法

研究デザイン

多施設共同後ろ向きコホート研究

研究期間

2013年7月~2022年2月

対象施設

米国内の4つのアカデミック医療機関

すべてレベル1外傷センター

対象患者

長管骨の骨折固定後に感染を発症し、 術後14日から6ヵ月以内にデブリードマンを受け、 少なくとも2週間の抗菌薬治療を受けた患者

除外基準

デブリードマン後、 6週間以内に再感染または再手術を受けた症例

主要評価項目

手術フリー生存率*¹、 感染フリー生存率*²

*¹人工関節感染に抗菌薬治療 (±手術) を行った後、 追加の再手術を要さずに経過した期間を時系列で解析した指標。 Kaplan–Meier法を用いて解析されている。
*²抗菌薬治療後に新たな感染 (再燃または再感染) を起こさずに経過した期間を時系列で解析した指標。

副次評価項目

再手術または再感染に関与するリスク因子

皮弁再建の要否、 培養結果、 感染の分類など

主な比較因子

抗菌薬による治療期間

6週間以下 (≦6週) と6週間超 (>6週) を比較

主な研究結果

患者背

対象患者96例のうち、 治療期間が6週間以下は54例 (56.3%)、 6週間超は42例 (43.7%) であった。 また、 最も多い骨折部位は脛骨 (84.4%) であった。

主要評価項

抗菌薬による治療期間の長さは、 手術フリー生存率・感染フリー生存率いずれにも影響しなかった。

  • 手術フリー生存率 : HR 0.95
95%CI 0.65–1.38、 p=0.78
  • 感染フリー生存率 : HR 0.77
95%CI 0.30–1.96、 p=0.58

副次評価項目

皮膚や軟部組織の再建に皮弁が必要だった患者では、 再手術または死亡のリスクが有意に高かった (HR 3.24、 95%CI 1.61–6.54、 p=0.001)。

培養陰性の患者では、 再手術または死亡のリスクが有意に高かった (HR 3.52、 95%CI 1.99–6.20、 p< 0.001)。 さらに、 再感染または死亡のリスクも増加した (HR 3.71、 95%CI 1.24–11.09、 p=0.019)。

Staphylococcus aureusPseudomonas sppの感染は、 手術フリー生存率や感染フリー生存率に有意な影響はなかった。

外傷後の骨折関連感染症、 抗菌薬治療の最適な期間は? (MMUSKIT Study)

抗菌薬治療期間を検討した初の他施設共同試験

骨折関連感染症に対する抗菌薬の最適な治療期間について、 米国で初めての多施設共同試験が実施されました。

骨折関連感染症は、 診断の難しさや疾患自体の多様さ (部位・程度・骨折箇所の数など) により、 骨関節感染症の分野の中でも統一した見解が得られにくい分野の1つとして有名です。

治療期間には"インプラント温存or抜去"が影響

一般的に、 まず骨折が治癒しており固定インプラントが完全に抜去可能かどうかが重要です。 もし、 骨折が治癒しておらず引き続き何かしらの固定が必要である場合は、 インプラントを温存する (DAIR*) か、 インプラントをいったん抜去して再置換を実施するかどうか (一期的・二期的) で、 治療期間が大きく分かれてきます。

*デブリードマン、 抗菌薬、 インプラント温存

骨折関連感染症におけるインプラント温存例では、 人工関節関連感染症と比較して抗菌薬治療期間が短くなります。 米国では12週間あるいはそれ以上、 ヨーロッパではより短い期間が推奨されることが多いです。 しかし、 これらを支持するエビデンスに乏しく、 最適な治療期間はいまだ議論が続いています。

大規模試験による治療期間最適化が課題

本研究では、 適切なデブリードマン後の抗菌薬治療期間の比較において、 6週間以下群と6週間を超える群で再手術と感染の再燃に差は見られませんでした。 今後は、 ランダム化試験を含む大規模な前向き研究による最適な治療期間の検証が課題です。

また、骨折関連感染症で重要な予防抗菌薬の戦略や創閉鎖のタイミング、皮弁の必要性などの更なる検討にも今後期待したいです。


著者 : 松尾貴公
2011年 長崎大学医学部卒業、 聖路加国際病院初期研修・内科専門研修・内科チーフレジデント・感染症科フェロー・医員を経て2021年 テキサス大学ヒューストン校/MDアンダーソンがんセンターにて臨床留学。 2022年 同チーフフェロー、 2023年 同アドバンストフェロー、 2024年よりメイヨークリニック感染症科の整形外科感染症フェローとして骨関節感染症に特化したトレーニングを行い更なる研鑽を積んでいる。 また、 日本チーフレジデント協会 (JACRA) 世話人を経て、 現在日本感染症教育研究会 (IDATEN) KANSEN JOURNAL編集委員・米国感染症学会 (IDSA) 感染症教育推進委員。 2024年2月よりFebrile Podcast ID Digital Institute (IDDI)のメンバーも務めており、 デジタルデバイスを活用した新しい感染症教育に積極的に取り組んでいる。

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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