【消化器】ESMO 2024の注目演題を解説
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HOKUTO編集部

2ヶ月前

【消化器】ESMO 2024の注目演題を解説

【消化器】ESMO 2024の注目演題を解説
欧州臨床腫瘍学会 (ESMO) 2024 の消化器癌 (胃癌・肝細胞癌) 領域における注目演題について、国立がん研究センター中央病院頭頸部・食道内科/消化管内科の山本駿先生にご解説いただきました。

はじめに

春に開催された米国臨床腫瘍学会 (ASCO) 2024に続き、 先日バルセロナで開催されたESMO 2024でも、 今後の実臨床に大きな影響を与えうる研究結果が複数報告された。 今回も昨年同様、 「癌種」 と 「治療セッティング」 別に注目演題を整理し、 HOKUTOユーザーの皆様と共有する。

▼目次
切除可能胃癌の周術期治療
切除不能胃癌の緩和的治療
中間期HCCのICI+分子標的薬併用

切除可能胃癌の周術期治療

胃癌における周術期治療の領域は近年HOTな話題が続いている。 今回も欧米の標準治療下ではあるが、 NEJMに同日掲載された第Ⅲ相試験TOPGEARが報告されたので共有する。

術前CRTの上乗せを検証 : TOPGEAR

主要評価はOS

TOPGEAR試験は、 切除可能な胃癌を対象に、 MAGIC試験FLOT4試験で用いられた術前・術後エピルビシン+シスプラチン+フルオロウラシル (5-FU) (ECF/ECX) 療法、 またはドセタキセル+オキサリプラチン+ロイコボリン+5-FU (FLOT) 療法に、 術前化学放射線療法 (5-FU+45Gy) の上乗せを検証した第III相国際共同無作為化比較試験である。 主要評価項目には全生存期間 (OS) が、 副次評価項目には無増悪生存期間 (PFS)、 病理学的完全奏効 (pCR) 割合、 安全性等が設定された。

pCRは達成もOS・PFSを改善せず

年齢や性別、 原発部位、 cT因子、 cN因子、 化学療法レジメンの内訳等の患者背景は両群で概ね一致していた。 pCR割合はCRT群で16.8%、 標準治療群で8.0%と報告され、 CRT群の標準治療群に対する優越性が証明された(p<0.0001)。

しかしOS中央値は、 CRT群で46.4ヵ月、 標準治療群で49.4ヵ月であり、 優越性が証明できなかった (HR 1.05、 95%CI 0.83-1.31)。 またPFS中央値はCRT群で31.4ヵ月、 標準治療群で31.8ヵ月と、 OSと同様の結果となった (HR 0.98、 95%CI 0.79-1.22)。

Grade 3以上の周術期化学療法中の有害事象 (AE) 発現率は、 CRT群で66.4%、 標準治療群で61.3%と報告された。 またGrade 3以上の手術関連AE発現率はCRT群で17.8%、 標準治療群で15.6%にとどまり、 放射線治療の上乗せによるAE発現頻度の増加は認められなかった。

小活

近年の国際学会では、 胃癌周術期治療に免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) を上乗せする発表が多かったが、 今年は術前CRTの上乗せを検証した第III相TOPGEAR試験が報告された。 本試験の結果から、 現状の胃癌周術期治療において、 CRTの上乗せ意義は乏しいと判断せざるをえない。 また食道腺癌ではあるもののASCO 2024で報告されたESOPEC試験でも術前CRTは治療成績が周術期FLOT療法より劣っていたことから、 手術を前提とした治療戦略においては、 術前CRTの開発は望ましくないと考えられる。

それでは胃癌におけるCRTの意義は乏しいのだろうか? 近年ICIの奏効が期待される対象を中心に臓器温存戦略が検討されているが、 ESMO 2023で発表されたSANO試験のように、 一部の腺癌に対してはCRTを軸とする臓器温存戦略に関する開発研究が進められている。 そのため、 胃癌や接合部癌におけるCRTの意義はまだ残っていると考えられる。 今後はCRTをどのような対象で用いるのか、 適切に選択するエビデンスの創出が求められる。

切除不能胃癌の緩和的治療

現在本邦では、 HER2やPD-L1 CPS、 CLDN18.2等の発現から、 それぞれの分子マーカーに基づく標準治療が確立している。 切除不能な進行胃癌全体の約20%を占めるHER2陽性例ではToGA試験の結果から、 抗HER2抗体トラスツズマブとフッ化ピリミジン系薬剤 (FP)、 プラチナ系薬剤の3剤併用法が用いられているが、 主に欧州ではESMO 2023で発表されたKEYNOTE-811試験の結果から、 PD-L1 CPS1以上であれば、 さらに抗PD-1抗体ペムブロリズマブを上乗せした4剤併用療法が用いられている。

また、 残りの約80%を占めるHER2陰性例ではCheckMate 649試験KEYNOTE-859試験の結果から、 抗PD-1抗体ニボルマブまたはペムブロリズマブ+FP+プラチナ系薬剤の3剤併用療法が用いられる。 CLDN18.2陽性であれば、 抗Claudin18.2抗体ゾルベツキシマブ+FP+プラチナ系薬剤の3剤併用療法も選択肢となる。

ESMO 2024からは、 本邦の実臨床に影響を与える可能性が高いKEYNOTE-811試験と、 今後の治療開発に影響を及ぼす可能性が高いMoonlight試験、 およびDESTINY-Gastric03試験を取り上げる。


未治療例へのペムブロリズマブ上乗せ : KEYNOTE-811

OS最終解析結果が報

KEYNOTE-811試験は、 未治療の切除不能なHER2陽性進行胃癌を対象に、 トラスツズマブ+フッ化ピリミジン系薬剤+プラチナ系薬剤にペムブロリズマブの上乗せを検証した第III相国際共同無作為化比較試験である。 主要評価項目はOSとPFSが設定された。 PFSの結果はESMO 2023で既に報告されており、 今年はOS最終解析の結果が報告された。

OS中央値は20.0ヵ月で有意に改善

患者背景は、 年齢や性別、 ECOG PS、 地域、 PD-L1 CPS発現、 化学療法レジメンの内訳等両群で一致していた。

追跡期間中央値50.2ヵ月時点での最終解析において、 OS中央値はペムブロリズマブ群で20.0ヵ月であり、 プラセボ群の16.8ヵ月に対する優越性が証明された(HR 0.80 [95%CI 0.67-0.94] )。 またPFS中央値は、 ペムブロリズマブ群で10.0ヵ月、 プラセボ群で8.1ヵ月と、 OS同様にペムブロリズマブ上乗せによる良好な結果が報告された(HR 0.73 [0.61-0.87])。

客観的奏効率 (ORR) は、 ペムブロリズマブ群で72.6%、 プラセボ群で60.1%だった。

全体での治療関連AE発現率は昨年同様それぞれ97%と同等だが、 Grade 3以上の治療関連AEに関しては8%ほどペムブロリズマブ群で高い傾向にあった。

小活

KEYNOTE-811試験は最終的にOSに関しても優越性を証明したことから、 現在の標準治療にペムブロリズマブを上乗せした4剤併用療法が、 今後のHER2陽性胃癌の標準的な1次治療として確立されたと言える。

ただし、 PD-L1 CPS 1未満では、 OSのHRが1.10 (95%CI 0.72-1.68)と報告されており、 承認時の条件次第であるものの欧米と同様に、 PD-L1 CPSに基づく治療選択も今後議論されるであろう。


最適な併用療法の検証 : Moonlight

4群間で有効性を比較

Moonlight試験は、 切除不能なHER2陰性の進行胃癌または接合部癌を対象に、 フルオロウラシル+レボホリナート+オキサリプラチン (FOLFOX) とニボルマブ+抗CTLA-4抗体イピリムマブ同時併用療法 (A群)、 FOLFOX+ニボルマブ+イピリムマブ逐次併用療法 (A2群)、 FOLFOX療法 (B群)、 FLOT+ニボルマブ併用療法 (C群) をそれぞれ比較した4群で構成される第II相無作為化比較試験である。 主要評価項目はPFSで、 副次評価項目はORRやOS、 安全性等だった。

ニボルマブ+イピリムマブ併用はPFS改善せず

患者背景は、 年齢や性別、 ECOG PS、 原発部位などに関しては概ね一致していたが、 PD-L1 CPS発現はC群で陽性例が65%と高い傾向にあった。

PFS中央値は、 A群で5.8ヵ月、 A2群で4.0ヵ月、 B群で6.6ヵ月、 C群で7.0ヵ月だった。

OS中央値は、 A群で10.1ヵ月、 A2群で7.6ヵ月、 B群で12.5ヵ月、 C群で14.6ヵ月だった。 またORRは、 A群で46%、 A2群で32%、 B群で47%、 C群で56%だった。

全Grade/Grade3以上の治療関連AE発現率は、 A群で96%/74%、 A2群で87%/45%、 B群で95%/45%、 C群で96%/67%だった。

小活

Moonlight試験では、 当初ニボルマブ+イピリムマブ併用 (A群、 A2群) が期待されていたと推察されるが、 結果は点推定値のみでもFOLFOX療法 (B群) に劣る結果となってしまった。 胃癌においてニボルマブ+イピリムマブ併用療法は、 昨年のESMOでMSI-highにおいては有効性が示唆されているが、 全体となるとCheckMate 649試験でも優越性は認められておらず、 今後ニボルマブ+イピリムマブ併用療法を開発するには、 適切な症例の抽出が必要であろう。

なおFLOT+ニボルマブ併用療法 (C群) が有望な結果を示しているが、 2次治療ではパクリタキセル+抗VEGFR-2抗体ラムシルマブ併用療法が用いられることが予期されるため、 本邦でも同様の結果が示されるのかについては今後の検討を要する。


未治療例へのT-DXd、 最適な併用療法の探索 : DESTINY-Gastric03

異なる6群のレジメンで有効性を検証

DESTINIY-Gastric03試験は、 未治療のHER2陽性進行/転移胃癌を対象として、 ①抗HER2抗体薬物複合体抗体トラスツズマブ デルクステカン(T-Dxd)6.4mg/kg単剤、 ②T-Dxd 6.4mg/kg +FP併用療法、 ③T-Dxd 6.4mg/kg+FP +ペムブロリズマブ併用療法、 ④T-Dxd 6.4mg/kg+ペムブロリズマブ併用療法、 ⑤T-Dxd 5.4mg/kg+ FP+ペムブロリズマブ併用療法、 ⑥標準治療 (トラスツズマブ+ FP+プラチナ系併用療法) の6群の有効性と安全性を検討した第Ib/II相試験である。

主要評価項目はORRが、 副次評価項目はPFSやOS、 安全性等が設定された。

単剤に比べFPやペムブロリズマブ併用が有望

年齢や性別、 地域、 ECOG PS、 原発部位等の患者背景は概ね一致していた。

有効性の結果は以下のとおりだった。

ORR

  • T-Dxd 6.4mg/kg単剤群           : 49%
  • T-Dxd 6.4mg/kg+5-FU群        : 78%
  • T-Dxd 6.4mg/kg+ FP +Pem群: 58%
  • T-Dxd 6.4mg/kg+Pem群         : 63%
  • T-Dxd 5.4mg/kg+ FP +Pem群: 59%
  • 標準治療群                              : 76%

PFS中央値

  • T-Dxd 6.4mg/kg単剤群    : 9ヵ月
  • T-Dxd 6.4mg/kg+5-FU群   : 20ヵ月
  • T-Dxd 6.4mg/kg+ FP +Pem群: 10ヵ月
  • T-Dxd 6.4mg/kg+Pem群         : 8ヵ月
  • T-Dxd 5.4mg/kg+ FP +Pem群: immature
  • 標準治療群                             : 12ヵ月

OS中央値

  • T-Dxd 6.4mg/kg単剤群    : 18ヵ月
  • T-Dxd 6.4mg/kg+5-FU群   : 23ヵ月
  • T-Dxd 6.4mg/kg+ FP +Pem群: 23ヵ月
  • T-Dxd 6.4mg/kg+Pem群 : 16ヵ月
  • T-Dxd 5.4mg/kg+ FP +Pem群: immature
  • 標準治療群 : 18ヵ月

小活

DESTINY-Gastric03試験は、 今後のHER2陽性進行胃癌に対する1次治療の開発におけるT-Dxdの最適な組み合わせを探索することを目的に行われた。 有効性に鑑みると、 単剤での開発よりも、 FPやペムブロリズマブを加えたほうが望ましいと考えられるが、 安全性に鑑みると、 T-Dxd 6.4mg/kgを用いた併用療法では間質性肺炎を含めたGrade 3以上のAEの発現頻度が高いため、 5.4mg/kg併用療法の長期成績次第ではこちらの用量での開発が望ましいと考えられる。

中間期HCCのICI+分子標的薬併用

標準治療へのペムブロリズマブ+レンバチニブ上乗せ効果を検証 : LEAP-012

主要評価はPFS、 OS

Intermediate stage (中間期) に該当する肝細胞癌 (HCC) の標準的な治療には肝動脈化学塞栓療法 (TACE) が確立されているが、 治療効果は限定的である。 さらなる治療効果を得るため、 進行期で用いられるようなICIや分子標的薬の併用療法の開発が行われてきた。 その中の臨床試験の1つが、 第Ⅲ相多施設共同二重盲検無作為化比較試験LEAP-012である。

LEAP-012試験は、 中間期HCCを対象に、 TACEに抗PD-1抗体ペムブロリズマブとマルチキナーゼ阻害薬レンバチニブの上乗せを検証した第III相試験である。 主要評価項目はPFSとOSであり、 副次評価項目でORRや安全性等が設定された。

PFS中央値14.6ヵ月、 併用療法で有意に改善

年齢や性別、 ECOG PS、 B型肝炎ウイルス感染、 C型肝炎ウイルス感染、 Child-Pughスコア、 バルセロナ臨床肝癌病期分類 (BCLC Staging) 等の患者背景は両群で概ね一致していた。

PFS中央値は、 併用療法群で14.6ヵ月、 プラセボ群で10.0ヵ月であり、 TACE+ペムブロリズマブ+レンバチニブ併用療法のプラセボに対する優越性が証明された(HR 0.66 [95%CI 0.51-0.84] )。 24ヵ月OS率は、 併用療法群で74.6%、 プラセボ群で68.6%と併用療法群で良好な傾向だった(HR 0.80 [95%CI 0.57-1.11]、 p=0.0867)。 ORRは、 併用療法群で46.8%、 プラセボ群で33.3%とこちらも併用療法群で良好な結果を示した(p=0.0005)。

Grade 3-4の治療関連AE発現率は併用療法群で71.3%、 プラセボ群で31.1%と、 併用療法群でのレンバチニブに関連する高血圧や蛋白尿、 血小板減少、 およびペムブロリズマブに関連する甲状腺機能低下、 下痢などが目立つ結果となった。

小活

今回の報告では主要評価項目を達成したものの、 重要なのはOSの結果であり、 今後の長期フォローアップの結果が期待される。

最後に

筆者自身の都合でESMO 2024はweb参加となったが、 来年は2023年同様現地に赴いて、 HOKUTOユーザーの皆様に興味深い演題の情報を提供できればと考えている。

解説医師

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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