本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではありません. 個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください.
QT延長症候群とは
- 一般にQTc > 456msecを 「延長』と呼ぶ
- > 500msecは、 TdP (トルサード・ド・ポアント)と呼ばれる特徴的なVTやVFなどの致死的不整脈から突然死を来すリスクが高い.
- 先天性と後天性に大別される.
- Schwartzらの診断基準が有名.
先天性QT延長症候群
- 聾を伴い常染色体劣性遺伝を示すJervell, Lange-Nielsen症候群
- 聾を伴わずに常染色体優性遺伝を示すRomano-Ward症候群
- いくつかの原因遺伝子が特定されている.
- 先天性QT延長症候群のうち80%は、QT延長症候群1型 (LQT1)、 2型 (LQT2)、 3型 (LQT3)のいずれかに分類される.
後天性QT延長症候群
- 原因遺伝子の検出率は25%程度
- もともとQT延長はないか軽度であるが、 外的要因 (薬剤、 徐脈、 低カリウム血症、 心不全など) によって著明なQT延長とそれに伴うTdPを呈する症候群と定義される.

- QT correction (補正QT時間)
- 実測QT時間を心拍数で補正した.
- 補正式によりQTcBやQTcFが知られる.
Bazett補正式 (QTcB)
QTcB = QT/ √RR
- 計算式がシンプルかつ簡便で、 汎用される.
- 単に「QTc」と言えばQTcBを指す場合が多い.
- QTcFに比べ、頻脈、徐脈共に過補正される.
Fridericia補正式 (QTcF)
QTcF = QT/ ³√RR
- Bazett補正式より過補正が少なくより正確.
- 一方、 計算式が煩雑である.
- FLT3阻害薬投与の際はQTcFを用いる.
薬剤性QT延長症候群
心筋細胞において、活動電位第3相(後期再分極相)では遅延整流K⁺チャネルを介したK⁺流出が起こっている. これを抑制する薬剤は、 結果としてQT延長を起こす¹⁾ ²⁾ ³⁾.
① 抗不整脈薬
- アミオダロン (アンカロン®)
- ソタロール (ソタコール®)
- ニフェカラント (シンビット®)
- キニジン
- ジソピラミド (リスモダン®)
- プロカインアミド (アミサリン®)
- ベプリジル (ベプリコール®)
②抗菌薬、 抗真菌薬
- クラリスロマイシン (クラリス®)
- エリスロマイシン (エリスロシン®)
- レボフロキサシン (クラビット®)
- モキシフロキサシン (アベロックス®)
- ガチフロキサシン (ガチフロ®)
- スルファメトキサゾール (バクタ®) ※ST合剤
- フルコナゾール (ジフルカン®)
③抗うつ薬、 抗精神病薬
三環系
- アミトリプチリン (トリプタノール®)
- ノルトリプチン (ノリトレン®)
- イミプラミン (トフラニール®)
- クロミプラミン (アナフラニール®)
四環系
抗精神病薬
- クロルプロマジン (コントミン®)
- ピモジド (オーラップ®)
- ハロペリドール (セレネース®)
- リスペリドン (リスパダール®)
- オランザピン (ジプレキサ®)
- クエチアピン (セロクエル®)
SSRI
- S-シタロプラム (レクサプロ®)
- セルトラリン (ジェイゾロフト®)
- フルボキサミン (ルボックス®、 デプロメール®)
④第一世代抗ヒスタミン薬
- ジフェンヒドラミン (レスタミン®)
- プロメタジン (ピレチア®、 ヒベルナ®)
- ヒドロキシジン (アタラックス®)
⑤抗がん剤
チロシンキナーゼ阻害薬
- ギルテリチニブ (ゾスパタ®)
- キザルチニブ (ヴァンフリタ®)
- スニチニブ (スーテント®)
- ソラフェニブ (ネクサバール®)
- イマチニブ(グリベック®)
- エルロチニブ (タルセバ®)
- ゲフィチニブ (イレッサ®)
- アファチニブ (ジオトリフ®)
- エヌトレクチニブ (ロズリートレク®)
- バンデタニブ (カプレルサ®)
SERM
- タモキシフェン (ノルバデックス®)
- トレミフェン (フェアストン®)
その他
- 三酸化二ヒ素 (トリセノックス®)
- 5-FU
- アンスラサイクリン系全般
⑥その他
- チアプリド (グラマリール®)
- アマンタジン (シンメトレル®)
- チザニジン (テルネリン®)
- プロピベリン (バップフォー®)
- ミラベグロン (ベタニス®)
- ドネペジル (アリセプト®)
- タクロリムス (プログラフ®)
- リバスチグミン (イクセロン®、 リバスタッチ®)
治療
急性期治療
- TdPの発作時の治療にはマグネシウムの有用性が示唆されている.
- 10~20分かけて1~2gを静注/骨髄内投与.
- 小児:10~20分かけて25~50mg/kg (最大投与量2g)を静注/骨髄内投与.
- 心停止となった多形性VT(torsades de pointes) にはより速く投与.
- 蘇生についてはACLS、PALSに準じる.
- その他、 原因薬剤の中止、 電解質補正、 一時的ペースメーカーによる徐脈改善を行う.
予防的治療
- β遮断薬経口内服や生活指導を行うが、 その適応も含め専門医コンサルト.
参考文献
- 日本循環器学会 遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン (2017 年改訂版)
- ヒト用医薬品の心室再分極遅延(QT間隔延長)の潜在的可能性に関する非臨床的評価について (薬食審査発1023第4号)
- 日本薬学会 薬学用語解説
- Br J Clin Pharmacol. 2002; 54(2): 188–202.
- Ann Pharmacother. 2013;47(10):1330-41.
- Br J Cancer. 2015 Mar 17;112(6):1011-6.
最終更新:2021年10月13日
監修医師:聖路加国際病院救急部 清水真人