内容
監修医師
本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではありません。 個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください。

1. 疫学・解剖

出血部位に応じて、"前鼻出血"と"後鼻出血"に分類され¹⁾、 80~90%が前鼻出血とされる²⁾

❶ 前鼻出血|主にキーゼルバッハ部位

多くは、 鼻中隔前方の領域 (キーゼルバッハ部位) から発生し、 この部位は前篩骨動脈、 蝶口蓋動脈、 顔面動脈 (上唇動脈) の3つの主要血管が吻合している³⁾。

鼻出血

❷ 後鼻出血|出血量が多く管理に難渋

鼻出血の10~20%は、 蝶口蓋動脈より生じる鼻腔後方からの出血に起因する²⁾。 前鼻出血と比較し、 出血量が多く、 コントロール困難となる可能性が高い²⁾。


2. 問診

処置と同時に以下の問診を行う。 なお、 大量出血が疑われたり、 バイタルサインに異常を認める場合、 問診よりも気道確保と静脈ラインの確保、 止血を優先する⁴⁾

具体的な問診例

- 最初に出血したのは左右どちらか⁴⁾

- 鼻出血の誘引はなにか

鼻粘膜への機械的刺激 (鼻ほじり等)、 一過性の血圧上昇 (くしゃみ、 鼻をかむ等)、 鼻の手術歴等、 外傷歴 (追加で頭蓋底骨折を疑う徴候を確認する*)

- 抗血小板薬や抗凝固薬などの内服歴⁴⁾

- 凝固障害や肝機能障害などの既往歴・家族歴³⁾

*参考:外傷で頭蓋底骨折を疑う徴候
- パンダ目徴候、 Raccoon eye (前頭蓋底骨折)
- 眼球位置異常、 運動異常 (眼窩壁骨折)
- 顔面の知覚障害 (三叉神経損傷)
- 鼻翼や上口唇の知覚異常 (頬骨、上顎骨骨折→眼窩下神経損傷)
- 下口唇の知覚異常 (下顎体部、角部骨折→オトガイ神経損傷)
- 顔面麻痺(側頭骨骨折→顔面神経管損傷)
- 外耳道出血 (側頭骨骨折→鼓膜破裂)
- 乳様突起部の皮下出血 Battle’s sign (中頭蓋底骨折)

3. 治療・処置

なにより重要なのはABCの安定化、 そして用指圧迫である。 ボスミン液の使い方やその他の対応についても後述する

(1) ABCの安定化

気道および循環動態の評価が肝要である。 大量出血が疑われたり、 バイタルサイン異常がある場合、 気道と血管の確保、 輸液を行う⁴⁾。

>>緊急気道管理・気管挿管についてはこちら

- 気管挿管の適応は?  : MOVES
- 気管挿管のプランは? : ABC
- 換気困難の評価は?  : MOANS
- 挿管困難の評価は?  : LEMONS
- 予備能の評価は?   : HOP
- 挿管前準備は?    : SOAPMD

(2) 用指圧迫による止血

全身状態が良好であれば、 座位で頭部を前屈させ⁴⁾、 用指的に鼻翼を圧迫する (10分以上)。 キーゼルバッハ部位からの出血の多くは圧迫で止血可能である。

鼻出血

口腔内の血液を嚥下すると催吐作用があるため、 適宜膿盆に吐き出すよう指示する³⁾。

(3) 血管収縮薬アドレナリンの塗布

止血が得られない場合、 出血側に血管収縮薬 (アドレナリン液) を含ませたガーゼを詰めさらに圧迫を行う。 この際、 局所麻酔剤 (リドカイン液) を使用することで患者の苦痛緩和が得られる。

希釈例1) ボスミン液0.1%を3~5倍希釈 (ボスミン3000~5000倍希釈)

希釈例2) ボスミン液0.1%:キシロカイン液4%を1:2~4程度で混合 (ボスミン3000~5000倍希釈)

(4) 外来での経過観察と帰宅時対応

出血がおさまってくるようであれば、 院内で10~15分程度経過観察をした後に帰宅⁴⁾とし、 翌日の耳鼻科受診を指示する。 それまでは鼻をかむこと・入浴・飲酒・運動は禁止する。 鼻内に詰めた血管収縮薬を含ませたガーゼは、 止血が得られたら、 帰宅前に必ず抜去する (乾燥後に抜去すると鼻腔粘膜を傷つけるため)。

パッキングしたまま帰宅をさせる場合は、 吸収性もしくは非吸収性の詰め物を行う⁴⁾。

▼吸収性 (サージセルやゼルフォームなど)

圧迫効果は低いが、 抜去の必要がなく、 患者の不快感は少ない⁴⁾。

鼻出血
ファイザー. ゼルフォーム製剤写真より引用

▼非吸収性 (メロセルやviscoなど)

挿入時は潤滑剤として抗菌薬の軟膏を塗布し、 鼻腔内を顔面に垂直方向に挿入する。 生理食塩水や抗菌薬溶液 (5~10cc) を含ませ膨張させ、 圧迫する。 救急外来で抜去はせず、 翌日以降に耳鼻科を受診するよう指示する⁵⁾。

鼻出血
メロセル®電子添文より画像引用

上記処置を行なっても出血の量が変化せず、 多量に口から血液を吐き出すような所見が続く場合、 後鼻出血が考えられ、 焼灼術などを目的とした耳鼻科医へのコンサルトが必要となる。 専門医を待つ間、 バルーンカテーテルによる後鼻腔圧迫が有用である⁴⁾。

参考:バルーンカテーテルによる後鼻腔圧迫
鼻腔用止血バルーンカテーテルや、 それらがなければ14~16Frの尿道バルーンカテーテルを使用する。 咽頭側からバルーンが咽頭内に到達したことを確認後、 バルーンを膨らませる (14Fr の場合、 規程量よりも多い8~12mL)。 拡張後のバルーンを引っ張り、 頰にテープで固定したうえで、 外鼻孔からタンポンガーゼを留置する。 さらに前方からガーゼを留置することにより血液の逃げ場がなくなり、 強固な止血が得られる⁶⁾。
ー 日本救急医学会編. 改訂第6版 救急診療指針より引用

4. 注意すべき原因疾患

救急外来での精査は必要ないが、 繰り返している場合は専門医での精査するよう指示する。

 - 高血圧⁴⁾
 - 血液疾患
  ・ 遺伝性出血性毛細血管拡張症⁴⁾
     (Osler-Weber-Rendu病)
  ・ von Willebrand病⁴⁾
  ・ 血小板減少症⁴⁾
  ・ 血友病⁷⁾
 - 悪性腫瘍⁴⁾ 
    ・ 鼻腔癌や上咽頭癌

出典

1) Clinical practice. Epistaxis. N Engl J Med. 2009 Feb 19;360(8):784-9. PMID: 19228621
2) Epistaxis. N Engl J Med. 2021 Mar 11;384(10):944-951. PMID: 33704939
3) Up to date: Approach to the adult with epistaxis
4) Philip Buttaravoli, Stephen M. Leffler著. 大滝純司訳. マイナーエマージェンシー原著第3版. 2015年. 医歯薬出版株式会社
5) 株式会社メディカルブリッジ. VISCOサージカルスポンジ®[最終閲覧 : 2024/03/26]
6) 日本救急医学会編. 改訂第6版 救急診療指針より引用
7) Clinical Practice Guideline: Nosebleed (Epistaxis) Executive Summary. Otolaryngol Head Neck Surg. 2020 Jan;162(1):8-25. PMID: 31910122
最終更新日 : 2024年4月9日
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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鼻出血

Nose bleeding
2022年05月10日更新
本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではありません。 個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください。

1. 疫学・解剖

出血部位に応じて、"前鼻出血"と"後鼻出血"に分類され¹⁾、 80~90%が前鼻出血とされる²⁾

❶ 前鼻出血|主にキーゼルバッハ部位

多くは、 鼻中隔前方の領域 (キーゼルバッハ部位) から発生し、 この部位は前篩骨動脈、 蝶口蓋動脈、 顔面動脈 (上唇動脈) の3つの主要血管が吻合している³⁾。

鼻出血

❷ 後鼻出血|出血量が多く管理に難渋

鼻出血の10~20%は、 蝶口蓋動脈より生じる鼻腔後方からの出血に起因する²⁾。 前鼻出血と比較し、 出血量が多く、 コントロール困難となる可能性が高い²⁾。


2. 問診

処置と同時に以下の問診を行う。 なお、 大量出血が疑われたり、 バイタルサインに異常を認める場合、 問診よりも気道確保と静脈ラインの確保、 止血を優先する⁴⁾

具体的な問診例

- 最初に出血したのは左右どちらか⁴⁾

- 鼻出血の誘引はなにか

鼻粘膜への機械的刺激 (鼻ほじり等)、 一過性の血圧上昇 (くしゃみ、 鼻をかむ等)、 鼻の手術歴等、 外傷歴 (追加で頭蓋底骨折を疑う徴候を確認する*)

- 抗血小板薬や抗凝固薬などの内服歴⁴⁾

- 凝固障害や肝機能障害などの既往歴・家族歴³⁾

*参考:外傷で頭蓋底骨折を疑う徴候
- パンダ目徴候、 Raccoon eye (前頭蓋底骨折)
- 眼球位置異常、 運動異常 (眼窩壁骨折)
- 顔面の知覚障害 (三叉神経損傷)
- 鼻翼や上口唇の知覚異常 (頬骨、上顎骨骨折→眼窩下神経損傷)
- 下口唇の知覚異常 (下顎体部、角部骨折→オトガイ神経損傷)
- 顔面麻痺(側頭骨骨折→顔面神経管損傷)
- 外耳道出血 (側頭骨骨折→鼓膜破裂)
- 乳様突起部の皮下出血 Battle’s sign (中頭蓋底骨折)

3. 治療・処置

なにより重要なのはABCの安定化、 そして用指圧迫である。 ボスミン液の使い方やその他の対応についても後述する

(1) ABCの安定化

気道および循環動態の評価が肝要である。 大量出血が疑われたり、 バイタルサイン異常がある場合、 気道と血管の確保、 輸液を行う⁴⁾。

>>緊急気道管理・気管挿管についてはこちら

- 気管挿管の適応は?  : MOVES
- 気管挿管のプランは? : ABC
- 換気困難の評価は?  : MOANS
- 挿管困難の評価は?  : LEMONS
- 予備能の評価は?   : HOP
- 挿管前準備は?    : SOAPMD

(2) 用指圧迫による止血

全身状態が良好であれば、 座位で頭部を前屈させ⁴⁾、 用指的に鼻翼を圧迫する (10分以上)。 キーゼルバッハ部位からの出血の多くは圧迫で止血可能である。

鼻出血

口腔内の血液を嚥下すると催吐作用があるため、 適宜膿盆に吐き出すよう指示する³⁾。

(3) 血管収縮薬アドレナリンの塗布

止血が得られない場合、 出血側に血管収縮薬 (アドレナリン液) を含ませたガーゼを詰めさらに圧迫を行う。 この際、 局所麻酔剤 (リドカイン液) を使用することで患者の苦痛緩和が得られる。

希釈例1) ボスミン液0.1%を3~5倍希釈 (ボスミン3000~5000倍希釈)

希釈例2) ボスミン液0.1%:キシロカイン液4%を1:2~4程度で混合 (ボスミン3000~5000倍希釈)

(4) 外来での経過観察と帰宅時対応

出血がおさまってくるようであれば、 院内で10~15分程度経過観察をした後に帰宅⁴⁾とし、 翌日の耳鼻科受診を指示する。 それまでは鼻をかむこと・入浴・飲酒・運動は禁止する。 鼻内に詰めた血管収縮薬を含ませたガーゼは、 止血が得られたら、 帰宅前に必ず抜去する (乾燥後に抜去すると鼻腔粘膜を傷つけるため)。

パッキングしたまま帰宅をさせる場合は、 吸収性もしくは非吸収性の詰め物を行う⁴⁾。

▼吸収性 (サージセルやゼルフォームなど)

圧迫効果は低いが、 抜去の必要がなく、 患者の不快感は少ない⁴⁾。

鼻出血
ファイザー. ゼルフォーム製剤写真より引用

▼非吸収性 (メロセルやviscoなど)

挿入時は潤滑剤として抗菌薬の軟膏を塗布し、 鼻腔内を顔面に垂直方向に挿入する。 生理食塩水や抗菌薬溶液 (5~10cc) を含ませ膨張させ、 圧迫する。 救急外来で抜去はせず、 翌日以降に耳鼻科を受診するよう指示する⁵⁾。

鼻出血
メロセル®電子添文より画像引用

上記処置を行なっても出血の量が変化せず、 多量に口から血液を吐き出すような所見が続く場合、 後鼻出血が考えられ、 焼灼術などを目的とした耳鼻科医へのコンサルトが必要となる。 専門医を待つ間、 バルーンカテーテルによる後鼻腔圧迫が有用である⁴⁾。

参考:バルーンカテーテルによる後鼻腔圧迫
鼻腔用止血バルーンカテーテルや、 それらがなければ14~16Frの尿道バルーンカテーテルを使用する。 咽頭側からバルーンが咽頭内に到達したことを確認後、 バルーンを膨らませる (14Fr の場合、 規程量よりも多い8~12mL)。 拡張後のバルーンを引っ張り、 頰にテープで固定したうえで、 外鼻孔からタンポンガーゼを留置する。 さらに前方からガーゼを留置することにより血液の逃げ場がなくなり、 強固な止血が得られる⁶⁾。
ー 日本救急医学会編. 改訂第6版 救急診療指針より引用

4. 注意すべき原因疾患

救急外来での精査は必要ないが、 繰り返している場合は専門医での精査するよう指示する。

 - 高血圧⁴⁾
 - 血液疾患
  ・ 遺伝性出血性毛細血管拡張症⁴⁾
     (Osler-Weber-Rendu病)
  ・ von Willebrand病⁴⁾
  ・ 血小板減少症⁴⁾
  ・ 血友病⁷⁾
 - 悪性腫瘍⁴⁾ 
    ・ 鼻腔癌や上咽頭癌

出典

1) Clinical practice. Epistaxis. N Engl J Med. 2009 Feb 19;360(8):784-9. PMID: 19228621
2) Epistaxis. N Engl J Med. 2021 Mar 11;384(10):944-951. PMID: 33704939
3) Up to date: Approach to the adult with epistaxis
4) Philip Buttaravoli, Stephen M. Leffler著. 大滝純司訳. マイナーエマージェンシー原著第3版. 2015年. 医歯薬出版株式会社
5) 株式会社メディカルブリッジ. VISCOサージカルスポンジ®[最終閲覧 : 2024/03/26]
6) 日本救急医学会編. 改訂第6版 救急診療指針より引用
7) Clinical Practice Guideline: Nosebleed (Epistaxis) Executive Summary. Otolaryngol Head Neck Surg. 2020 Jan;162(1):8-25. PMID: 31910122
最終更新日 : 2024年4月9日
監修医師 : HOKUTO編集部監修医師

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