本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではありません. 個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください.
ポイント
- 気管挿管の適応は?:MOVES
- 気管挿管のプランは?:ABC
- 換気困難の評価は?:MOANS
- 挿管困難の評価は?:LEMONS
- 予備能の評価は?:HOP
- 挿管前準備は?:SOAPMD
気管挿管の適応『MOVES』
- Maintain airway:気道確保に難渋
- Mental status:意識障害
- Oxygenation:酸素化低下
- Ventilation:換気不全、 ナルコーシス
- Expectoration:喀血や吐物など
- Expected course:予期されたコース
- Shock:ショック
プランと準備『ABC』
- Assessment:挿管ルートと鎮静深度
- Back up plan:失敗時のプラン
- Call for help:人を呼ぶ
挿管ルートの選択 (鼻・口・喉)
- 換気困難の評価 MOANS、 挿管困難の評価 LEMONS、 予備能の評価 HOPから、 鎮静深度、挿管ルートを判断していく.
- MOANS、 LEMONSともに問題なければ、RSIが一般的である.
- MOANS、 LEMONSに異常があり、 挿管困難が予測される場合は、 意識下挿管、 盲目的経鼻挿管、 内視鏡下挿管などを検討する.
- 2回挿管できない場合は、 外科的気道確保(輪状甲状靭帯穿刺または切開) を選択する.
RSI/DSI/Crash airway
- RSI 迅速導入気管挿管・・・Rapid sequence intubationの略で、鎮静と筋弛緩を同時に施行し、マスク換気をしない迅速な挿管を行うことで、誤嚥を防ぐ。複数の根拠をもとに、欧米では第一選択となっている。換気困難と思われればRSIを行わない。原則的に薬剤投与後は陽圧換気しない (SpO₂≦90%は容認 modified rapid sequence intubation)
- DSI 遅延導入気管挿管・・・Delayed Sequence Intubationの略で、前酸素化が不十分なときなどに用いる導入手法。鎮痛薬を緩徐投与、適切な鎮静で前酸素化を行う。その後筋弛緩薬を使用し気管挿管する。この場合、酸素化のための換気による嘔吐に注意が必要である。DSIの際にはケタミンの使用が好まれることが多い。
- Crash airway・・・無反応、無呼吸、瀕死の呼吸状態等で、 薬剤投与や点滴確保よりも挿管が最も優先される状態。心肺停止時や重症外傷などがこれにあたる。
換気困難の予測『MOANS』
- Mask seal:マスク密着を妨げる髭、 外傷等
- Obesity:肥満や妊婦
- Obstruction:気道閉塞 (血腫・外傷)
- Age:高齢 ≧ 55歳以上はリスク
- No teeth:歯がない
- Stiff lungs: 妊娠、喘息、COPD等 閉塞性障害
換気、それは気道管理の命綱!
- CICV (1件/1万人)が起きると致命的!換気さえできれば人を呼べる.
- EC-clamp法や2人法(母指球筋法)もバックアッププランとして習得.
CICV : Cannot intubate, Cannot ventilate
予備能がある病態か『HOP』
- Hypotension: 挿管・薬剤投与により低血圧になる可能性は?
- Oxygenation: すでに重篤な低酸素状態で呼吸を止めて良い状態か?
- pH↓: 換気を抑制してはいけない重篤な代謝性アシドーシスは?
急変の準備を忘れずに!
- 予備能のない患者ではしばしば急変する可能性がある.
- 気道確保は生命維持のため最優先ではあるが、 予備能力が低下している場合は事前準備を怠らない(例:昇圧剤、 透析、マンニトール、体外循環)
挿管困難の予測『LEMONS』
- Look Externelly:肥満・小顎・突出した歯
- Evaluate:3−3−2ルールの確認
- Mallampati:Mallampati分類
- Obstruction:気道閉塞の有無 (血腫、外傷)
- Neck mobility:頸部可動性
- Saturation:酸素飽和度
3−3−2ルール
以下に該当すると挿管困難リスクが高い.
- A 開口幅≦3横指
- B 下顎先端-舌骨間≦3横指
- C 甲状切痕-下顎下面≦2横指
Mallampati分類|喉頭展開前
喉頭展開前に挿管困難を簡易的に予測. 開口し舌を出させた状態で口蓋垂の見え具合を分類. ClassⅢ以上は挿管困難リスク!

- Class Ⅰ:よく見える
- Class Ⅱ:口蓋垂の先端が隠れる
- Class Ⅲ:軟口蓋と口蓋垂の基部のみ
- Class Ⅳ:軟口蓋が見えず, 硬口蓋のみ
Cormack-Lehane分類|喉頭展開後
喉頭展開後に挿管困難を予測. 主に麻酔下喉頭展開後に声帯、喉頭蓋の見え具合を分類. Grade3以上は挿管困難リスク!

- Grade1:声帯全体
- Grade2:声帯の一部
- Grade3:声帯が見えない
- Grade4:喉頭蓋も見えない
機材の準備『SOAPMD』
- Suction:吸引(ヤンカー)
- Oxygen:酸素 (Preoxygenation)
- Air stuff:気動確保用品
- Pharmacy:薬剤 (鎮静・鎮痛・筋弛緩)
- Position:挿管時の姿勢
- Monitor:モニター(血圧, 心電図, Sat)
- Denture:入れ歯、動揺歯はないか
A:気道確保用品の準備例
- バッグバルブマスク
- 喉頭鏡 ブレード3~4
- 挿管チューブ *径は以下参照
- スタイレット
- シリンジ
- バイトブロック
- End-tidal CO₂モニターまたはCO₂ detector
▼バックアップ用の準備
- GEB (ガムエラスティックブジー)
- エアウェイスコープ (C-MAC、McGRATHなど)
- 声門上デバイス (LMAなど)
- 気管支鏡
- 輪状甲状間膜切開用の器具
▼挿管チューブ径
- 成人男性 8.5mm (8.0~9.0)
- 成人女性 7.5mm (7.0~8.0)
- 小児(2−6歳) 4.0+(年齢÷4)
▼気管チューブの固定
P 挿管時の姿勢
- 一般的には、スニッフィングポジション
- 肥満では、 Ear to sternal notchが有効かも(耳孔と胸骨上端の高さをあわせる)
挿管後の急変原因『DOPE』
- Displacement:チューブの位置異常
- Obstruction:チューブの閉塞
- Pneumothorax:気胸
- Equipment failure:機器不具合
E:機器不具合例
- 以下わからなければまずは交換!
- 酸素が流れていない
- 酸素が切れている
- 酸素チューブが抜けている
- ワンウェイバルブがついていない 等
挿管後の確認事項
聴診・視診
- 心窩部で胃内送気音がない
- 左右前胸部・側胸部の聴診で左右差がない
- 胸郭が挙上する
- 腹部が膨隆しない
モニター・機材
- 挿管チューブのくもりの動きがある
- EtCO₂モニターで波形が出る
- リザーバーが膨らむ
- 酸素飽和度の著しい低下がない
最終更新:2022年1月20日
監修医師:聖路加国際病院救急部 清水真人