本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではありません. 個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください.
ポイント
- 年々患者数は著しい増加傾向にある!
- 無症状の場合もあるため、積極的に検査!
- 他の性感染症を精査時は梅毒も検査!
- RPRが下がるまでフォローアップを継続!
疫学
患者数は年々増加
- 女性では20代にピークが来る一峰性分布.
- 男性では20代と40代の二峰性分布.
- 2009年から10年で患者数は10倍以上増加¹⁾.
MSMと梅毒
- MSM|men who have sex with men
- 男性同性間性交渉を行う男性で特に多い.
- 米国では梅毒急性感染を診断された患者のうち半分がMSMである²⁾.
HIVと梅毒
- 梅毒患者のHIV合併が多い.
- 米国では梅毒急性感染を診断されたMSMのうち4割がHIV感染を合併している²⁾.
症状
- 1期 (硬性下疳、リンパ腫)、 2期 (皮疹) からなる前期梅毒と、 3期(ゴム腫)、 4期 (血管病変など) からなる晩期梅毒に大別される³⁾.
- 感染から時間が経過し自覚症状のなくなった梅毒を潜伏梅毒といい、 1年以内の早期潜伏梅毒、 1年以降の後期潜伏梅毒に分かれる. いずれも治療対象である⁴⁾.
- オーラルセックスから感染した場合、 咽頭梅毒のbutterfly appearanceは有名.
検査
- 非トレポネーマ試験 (RPRなど)、 トレポネーマ試験 (TPHA、TPLAなど) の組み合わせで診断する.
- HIV抗原抗体も同時に検査する.
- 神経梅毒や眼梅毒を疑う場合は腰椎穿刺を考慮するが、 症状に乏しい場合は必須ではない³⁾.
診断
- RPR (非トレポネーマ試験) 陽性→ 急性感染
- TPHA (トレポネーマ試験) 陽性→ 既感染
注意事項
- RPRが低値で陽性 → serofast reaction (治癒後だが抗体価が低下しない)のため、 治療不要の場合もある.
- RPRは肝疾患、 自己免疫疾患、 妊娠などで生物学的偽陽性を来たしうる.
- 早期感染ではRPR、 TPHA共に陰性になることもあるため、 1ヶ月程度あけて再検査を.
1期梅毒(侵入門戸のみの病変)
- 1期梅毒は硬性下疳 (こうせいげかん|多くは無痛性) とリンパ節腫脹がみられる. その他、 侵入門戸によっては口唇、 口腔咽頭粘膜、 陰部周辺、 肛門周辺にも初発病変を形成しうる.
- RPRよりもTPHAの方が先に陽性化し、 一旦陽性になると終生続く.
- 初期ではRPR(-)のこともあり、 否定には1ヶ月程度を空けて再検する.
- 硬性下疳はヘルペス感染症と酷似することや、重複感染も考慮する.
2期梅毒(全身病変)
- 1期梅毒に加え、 体幹、 手掌、 足底に斑点状丘疹を認める. 皮膚以外の臓器を侵すこともある.
- 梅毒性バラ疹、 丘疹性梅毒疹、 扁平コンジローマの表現系をとることもある
- 潜伏梅毒と2期梅毒を繰り返すことがある (サーキット形成)
3期梅毒(感染力なし)
- 心血管病変、 ゴム腫、 脊髄癆など.
- 見かける機会は少ない.
早期潜伏梅毒
- 梅毒が未治療のまま経過した、 感染後1年以内かつ無症状の梅毒.
- 2期梅毒に再び移行することもある.
後期潜伏梅毒
- 梅毒が未治療のまま経過した、 感染後1年以上かつ無症状の梅毒.
- 性交渉での周囲への感染性は失われている.
- 治療は3期梅毒に準じる.
神経梅毒(眼梅毒含む)
- 第1~3期の全てで合併しうる.
- 神経症状 (痙攣、 認知症様症状など) を伴う場合に特に疑う.
- 髄液RPR(+)、 FTA-ABS(+)などで診断可能.
- 神経症状がない限り、 HIVの合併の有無に関わらず、 ルーチンでの髄液検査は推奨されていない.
治療例 (腎機能正常の場合)
1-2期梅毒 (早期梅毒)、 早期潜伏梅毒
以下のいずれかを用いる.
3期梅毒 (後期梅毒)、 後期潜伏梅毒
神経梅毒
注意点
- 治療目標は、 4週程度ごとに測定するRPRが診断当初の1/4以下になることである. それまでフォローアップ.
- ベンザチンペニシリンG筋注 (ステルイズ®) は2021年9月に承認された.
- Jarisch-Herxheimer反応に注意 (治療直後に時たま起こる発熱、 悪寒、 血圧低下) .
- 妊婦に対しては、妊娠していない患者と同様にペニシリンでの治療を行う³⁾. アレルギーがある場合は脱感作を行う.
参考文献
- 厚生労働省性感染症報告数 (2004~2019年)
- N Engl J Med. 2020 Feb 27;382(9):845-54
- サンフォード感染症治療ガイド2021
- 日本性感染症学会. 梅毒診療ガイド
最終更新:2022年1月29日
監修医師:聖路加国際病院救急部 清水真人