内容
監修医師
本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではありません.  個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください.

ポイント

- 意識が完全に戻らなければ「失神」ではない

- 「一過性意識障害」と「失神」の違いを明確に

- 特に「心原性失神」のリスク評価が重要

- 初回心電図だけで心原性失神を否定しない

- フォローや入院なしに帰宅させない

病態・疫学

ERの3~5%、 入院患者の1~3%程度とされる¹⁻³⁾。 また、 生涯に一度でも失神を経験する人は、 人口の19~41%に達すると報告されている⁴⁾。

一過性意識障害の定義

秒〜分単位持続し、自然回復する意識障害

失神の他にも、てんかん、脳血管障害、 過換気症候群などの非失神疾患が含まれる.

失神の定義

全脳の血流低下による一過性意識障害

脳への血流が6~8秒途絶され、収縮期血圧が60mmHgまで低下すると意識消失に至る.

失神の分類

失神/一過性意識障害
基本的には以下の3つに分類される
  1. 心原性失神
  2. 起立性低血圧失神
  3. 神経調節性失神
※中枢性失神は稀 (前兆頭痛や神経症状を伴う場合に考慮)

▼失神の予後

  • 心原性失神 >>> 起立性低血圧失神 > 神経調節性失神の順で予後が高い。
  • 神経調節性失神は予後良好なため緊急精査不要、ERでは特に「心原性失神」の診断とリスク層別化が重要である。

▼起立性低血圧と神経調節性失神の違い

  • 起立性低血圧は、 起立後もしくは座位後2分以内に起こることがほとんど。 一方、 神経調節性失神は起立後もしくは座位後5分以上経過してから発症。
  • いずれも自律神経が関与しているためオーバーラップしている点が多いが、 起立性低血圧は, 脱水,出血,薬剤,自律神経異常で起立後2分以内に症状出現。
  • 神経調節性失神は, 自律神経異常で特定の状況(不安,排便,咳嗽など)で 症状出現、 起立と関連して起きにくいと考えておく。

診断アルゴリズム

失神/一過性意識障害
  1. 病歴•身体所見から失神発作か否か判断
  2. 心原性失神が確定すれば入院治療
  3. それ以外は、 心原性失神のリスク層別化
  4. 高リスク → 基本は入院精査
  5. 中リスク → 経過観察後に判断
  6. 低リスク → 帰宅可能

ポイント

  • ABCの安定化と外傷精査は忘れない。
  • ①危険な心電図所見、 ②心原性失神の高リスク因子 (病歴、既往歴、身体所見)を確認。
  • いずれかに該当する場合、 救急外来での経過観察もしくは入院を考慮し、 循環器内科へコンサルト。
  • 適切な経過観察時間に関して明確なものはないが、 ESCガイドラインでは、ERで最大6時間、 入院では最大24時間を推奨⁷⁾。
  • 心原性失神のリスク因子がなく、 ③神経調節性失神の臨床的特徴に矛盾しなければ、 低リスクとして帰宅可能。

①危険な心電図所見⁷⁾

▼不整脈による失神と診断可能

  • 虚血性心疾患が疑われる心電図
  • Mobitz II型または3度房室ブロック
  • 上室または心室頻拍
  • 徐脈性心房細動(<40/分)
  • 陰性変力作用のある薬剤を使用せずに洞性徐脈(<40/分)、 反復する洞房ブロックまたは洞停止(>3秒)
  • 心停止をきたすPM、 ICD不全
  • Brugada 症候群
  • QT延長 (QTc>460msec)  >>計算する

▼不整脈による失神を示唆

  • WPW症候群
  • Mobitz I型または1度房室ブロックで PR 延長(PR 間隔>0.3 秒)
  • QT短縮 (QTc<340 msec) >>計算する
  • 不整脈原性右室心筋症(ARVC)
  • 無症候徐脈or徐脈性心房細動(40~50bpm)
  • 心筋梗塞を示唆する波形(ST上昇、異常Q等)
  • 発作性上室頻拍,心房細動

②心原性失神の高リスク因子⁷⁾

1.発症時の状況

  • 新規発症の胸部不快、呼吸困難、腹痛、頭痛
  • 労作時や仰臥位での失神
  • 突然発症の動悸直後の失神
  • 警告症状のない10秒以内の短い前失神※
  • 原因不明の若年死の家族歴※
  • 座位での失神※
※心電図異常や心疾患の既往を伴う場合

2.既往歴

  • 重症な器質的心疾患 (心不全、低左心機能等)
  • 冠動脈疾患 (陳旧性心筋梗塞等)

3.身体所見

  • 原因不明の収縮期血圧<90mmHg
  • 直腸診で血便や黒色便が疑われる場合
  • 無症候性の持続性の徐脈(<40回/分)
  • 未診断の収縮期雑音

③神経調節性失神の臨床的特徴⁷⁾

  • 過去に同様のエピソード (特に40歳まで)
  • 不快な光景、 音、 匂い、 痛みの後に発症
  • 長時間の立位後に発症
  • 食事中に発症
  • 人混みや暑い場所で発症
  • 顔面蒼白や冷汗、嘔気などの前駆症状
  • 頭位変換や頸動脈洞の圧迫を伴う(腫瘍や髭剃りやタイトな襟)
  • 心疾患がない

治療

- 心原性失神:経過観察、ペースメーカ挿入

- 起立性低血圧:補液、輸血を検討

- 神経調節性失神:誘引除去

失神を繰り返すようであれば、 ホルター心電図や埋め込み型ループレコーダー(implantable loop recorder : ILR)を検討

出典

1) Eur Heart J. 2001 Aug;22(15):1256-306.
2) JAMA. 1982 Sep 10;248(10):1185-9.
3) Keio J Med. 1994 Dec;43(4):185-91.
4) Circulation. 2017 Aug 1;136(5):e25-e59.
5) JACC. 1992 Mar 15;19(4):773-9.
6) NEJM. 2002 Sep 19;347(12):878-85.
7) Eur Heart J. 2018 Jun 1;39(21):1883-1948.

関連コンテンツ

🚑 ERマニュアル|急性心筋梗塞

🚑 ERマニュアル|肺血栓塞栓症

🚑 ERマニュアル|急性大動脈解離

🔢 サンフランシスコ失神ルール (CHESS)

🔢 カナダ失神リスクスコア

🔢 OESILスコア

最終更新:2024年3月23日
監修医師:聖路加国際病院救急部 清水真人

失神/一過性意識障害
こちらの記事の監修医師
HOKUTO編集部
HOKUTO編集部

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

HOKUTO編集部
HOKUTO編集部

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

監修・協力医一覧
失神/一過性意識障害
失神/一過性意識障害

失神/一過性意識障害

Syncope
2021年11月18日更新
本コンテンツは特定の治療法を推奨するものではありません.  個々の患者の病態や、 実際の薬剤情報やガイドラインを確認の上、 利用者の判断と責任でご利用ください.

ポイント

- 意識が完全に戻らなければ「失神」ではない

- 「一過性意識障害」と「失神」の違いを明確に

- 特に「心原性失神」のリスク評価が重要

- 初回心電図だけで心原性失神を否定しない

- フォローや入院なしに帰宅させない

病態・疫学

ERの3~5%、 入院患者の1~3%程度とされる¹⁻³⁾。 また、 生涯に一度でも失神を経験する人は、 人口の19~41%に達すると報告されている⁴⁾。

一過性意識障害の定義

秒〜分単位持続し、自然回復する意識障害

失神の他にも、てんかん、脳血管障害、 過換気症候群などの非失神疾患が含まれる.

失神の定義

全脳の血流低下による一過性意識障害

脳への血流が6~8秒途絶され、収縮期血圧が60mmHgまで低下すると意識消失に至る.

失神の分類

失神/一過性意識障害
基本的には以下の3つに分類される
  1. 心原性失神
  2. 起立性低血圧失神
  3. 神経調節性失神
※中枢性失神は稀 (前兆頭痛や神経症状を伴う場合に考慮)

▼失神の予後

  • 心原性失神 >>> 起立性低血圧失神 > 神経調節性失神の順で予後が高い。
  • 神経調節性失神は予後良好なため緊急精査不要、ERでは特に「心原性失神」の診断とリスク層別化が重要である。

▼起立性低血圧と神経調節性失神の違い

  • 起立性低血圧は、 起立後もしくは座位後2分以内に起こることがほとんど。 一方、 神経調節性失神は起立後もしくは座位後5分以上経過してから発症。
  • いずれも自律神経が関与しているためオーバーラップしている点が多いが、 起立性低血圧は, 脱水,出血,薬剤,自律神経異常で起立後2分以内に症状出現。
  • 神経調節性失神は, 自律神経異常で特定の状況(不安,排便,咳嗽など)で 症状出現、 起立と関連して起きにくいと考えておく。

診断アルゴリズム

失神/一過性意識障害
  1. 病歴•身体所見から失神発作か否か判断
  2. 心原性失神が確定すれば入院治療
  3. それ以外は、 心原性失神のリスク層別化
  4. 高リスク → 基本は入院精査
  5. 中リスク → 経過観察後に判断
  6. 低リスク → 帰宅可能

ポイント

  • ABCの安定化と外傷精査は忘れない。
  • ①危険な心電図所見、 ②心原性失神の高リスク因子 (病歴、既往歴、身体所見)を確認。
  • いずれかに該当する場合、 救急外来での経過観察もしくは入院を考慮し、 循環器内科へコンサルト。
  • 適切な経過観察時間に関して明確なものはないが、 ESCガイドラインでは、ERで最大6時間、 入院では最大24時間を推奨⁷⁾。
  • 心原性失神のリスク因子がなく、 ③神経調節性失神の臨床的特徴に矛盾しなければ、 低リスクとして帰宅可能。

①危険な心電図所見⁷⁾

▼不整脈による失神と診断可能

  • 虚血性心疾患が疑われる心電図
  • Mobitz II型または3度房室ブロック
  • 上室または心室頻拍
  • 徐脈性心房細動(<40/分)
  • 陰性変力作用のある薬剤を使用せずに洞性徐脈(<40/分)、 反復する洞房ブロックまたは洞停止(>3秒)
  • 心停止をきたすPM、 ICD不全
  • Brugada 症候群
  • QT延長 (QTc>460msec)  >>計算する

▼不整脈による失神を示唆

  • WPW症候群
  • Mobitz I型または1度房室ブロックで PR 延長(PR 間隔>0.3 秒)
  • QT短縮 (QTc<340 msec) >>計算する
  • 不整脈原性右室心筋症(ARVC)
  • 無症候徐脈or徐脈性心房細動(40~50bpm)
  • 心筋梗塞を示唆する波形(ST上昇、異常Q等)
  • 発作性上室頻拍,心房細動

②心原性失神の高リスク因子⁷⁾

1.発症時の状況

  • 新規発症の胸部不快、呼吸困難、腹痛、頭痛
  • 労作時や仰臥位での失神
  • 突然発症の動悸直後の失神
  • 警告症状のない10秒以内の短い前失神※
  • 原因不明の若年死の家族歴※
  • 座位での失神※
※心電図異常や心疾患の既往を伴う場合

2.既往歴

  • 重症な器質的心疾患 (心不全、低左心機能等)
  • 冠動脈疾患 (陳旧性心筋梗塞等)

3.身体所見

  • 原因不明の収縮期血圧<90mmHg
  • 直腸診で血便や黒色便が疑われる場合
  • 無症候性の持続性の徐脈(<40回/分)
  • 未診断の収縮期雑音

③神経調節性失神の臨床的特徴⁷⁾

  • 過去に同様のエピソード (特に40歳まで)
  • 不快な光景、 音、 匂い、 痛みの後に発症
  • 長時間の立位後に発症
  • 食事中に発症
  • 人混みや暑い場所で発症
  • 顔面蒼白や冷汗、嘔気などの前駆症状
  • 頭位変換や頸動脈洞の圧迫を伴う(腫瘍や髭剃りやタイトな襟)
  • 心疾患がない

治療

- 心原性失神:経過観察、ペースメーカ挿入

- 起立性低血圧:補液、輸血を検討

- 神経調節性失神:誘引除去

失神を繰り返すようであれば、 ホルター心電図や埋め込み型ループレコーダー(implantable loop recorder : ILR)を検討

出典

1) Eur Heart J. 2001 Aug;22(15):1256-306.
2) JAMA. 1982 Sep 10;248(10):1185-9.
3) Keio J Med. 1994 Dec;43(4):185-91.
4) Circulation. 2017 Aug 1;136(5):e25-e59.
5) JACC. 1992 Mar 15;19(4):773-9.
6) NEJM. 2002 Sep 19;347(12):878-85.
7) Eur Heart J. 2018 Jun 1;39(21):1883-1948.

関連コンテンツ

🚑 ERマニュアル|急性心筋梗塞

🚑 ERマニュアル|肺血栓塞栓症

🚑 ERマニュアル|急性大動脈解離

🔢 サンフランシスコ失神ルール (CHESS)

🔢 カナダ失神リスクスコア

🔢 OESILスコア

最終更新:2024年3月23日
監修医師:聖路加国際病院救急部 清水真人

こちらの記事の監修医師
HOKUTO編集部
HOKUTO編集部

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

HOKUTO編集部
HOKUTO編集部

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

監修・協力医一覧
こちらの記事の監修医師
HOKUTO編集部
HOKUTO編集部

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師

各領域の第一線の専門医が複数在籍

最新トピックに関する独自記事を配信中

HOKUTO編集部
HOKUTO編集部

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

ERマニュアル

当直や救急外来ですぐに役立つコンテンツを無料掲載!

監修は、SNSを用いた医学情報共有や医学教育を専門とする、聖路加国際病院救急部の清水真人先生。デジタルデバイスで読みやすいHOKUTOオリジナルの図表をご用意いたしました!