概要
計算
監修医師

PECARN頭部外傷ルールとは?

小児頭部外傷患者に対するCT撮影は、 被爆による悪性腫瘍リスクがある。 そこで、 臨床的に重要な外傷性脳損傷 (clinically-important traumatic brain injury:ciTBI) のリスクが非常に低く、 CTが不要と思われる小児を特定するため、 Pediatric Emergency Care Applied Research Network (PECARN) により北米の救急25施設の症例をもとに臨床予測スコアが開発された¹⁾。 同様のスコアとして、 カナダのCATCHや、イギリスのCHALICEが知られている.

対象患者¹⁾

頭部外傷後24時間以内に来院したGCS14~15の18歳未満の患者¹⁾

除外条件¹⁾

  • GCS13以下の頭部外傷患者
  • 転倒、 歩行、 静止物への衝突などの低エネルギー外傷で、 頭皮の擦過傷や裂傷以外に頭部外傷の徴候や症状がない
  • その他、 貫通外傷、 既知の脳腫瘍、 既知の神経障害、 前医ですでに画像診断がなされている

ciTBIの定義¹⁾:いずれかを満たす

  • 外傷性脳損傷(TBI)による死亡
  • TBIに対する脳外科手術の介入

  - 頭蓋内圧モニタリング

  - 陥没した頭蓋骨骨折の挙上

  - 脳室吻合術

  - 血腫除去

  - 脳葉切除術

  - 組織のデブリードメント

  - 硬膜修復など

  • 24時間以上の挿管
  • TBI関連症状*の為2泊以上の入院を要する
持続的な精神状態の変化、 頭部外傷による再発性嘔吐、 持続的な激しい頭痛、 けいれんの管理

CT上のciTBIの定義¹⁾: いずれかを満たす

  • 頭蓋内出血または脳挫傷
  • 脳浮腫
  • 外傷性梗塞
  • びまん性軸索損傷
  • 剪断損傷
  • S状静脈洞血栓症
  • 正中偏位または脳ヘルニアの徴候
  • 頭蓋骨の離開
  • 気脳症
  • 頭蓋骨陥没骨折 (≧頭蓋骨の幅分)

フローチャート¹⁾

頭部外傷後24時間以内に来院したGCS14~15の18歳未満の患者 (除外条件は前項参照).

2歳未満

PECARN 小児頭部外傷ルール
* 不穏、傾眠、同じ質問を繰り返す、言語指示に対し反応鈍い ** 車外放出、 同乗者死亡、 横転事故、 歩行者またはヘルメットのない二輪車対車の事故、 0.9m以上からの転落、 衝撃の強い物による打撃

2歳以上

PECARN 小児頭部外傷ルール
* 不穏、傾眠、同じ質問を繰り返す、言語指示に対し反応鈍い **車外放出、 同乗者死亡、 横転事故、 歩行者またはヘルメットのない 二輪車対車の事故、 1.5m以上からの転落、 衝撃の強い物による打撃

エビデンス

オリジナル¹⁾

  • PECARN危険因子陰性の2歳未満の小児では、 ciTBIに対する陰性的中率100.0% [95%CI 99.7-100.0] 感度100.0% [86.3-100.0]¹⁾.
  • PECARN危険因子陰性の2歳以上の小児では、 ciTBIに対する陰性的中率99.95% [95%CI 99.81-99.99] 感度96.8% [89.0-99.6]¹⁾.

外部検証²⁾³⁾

  • 北米とイタリアの2つの施設で、 頭部外傷後24時間以内に来院したGCS14以上の2,439人の小児を対象にした外部検証では、 両年齢層でciTBIを除外する感度が100%[83.2-100%]であった²⁾.
  • また、 特異度55%[52.5-56.6]、 陰性的中率100% [99.6-100%]であった²⁾.
  • オーストラリアとニュージーランドで実施された前向き研究では、 PECARNのそれぞれのリスクカテゴリーごとのciTBI発生率を明らかにした³⁾.
  • ciTBIの発生率は、 2歳未満の小児では高リスク群/中リスク群/低リスク群でそれぞれ8.5%/0.2%/0.0%、 2歳以上の小児では5.7%/0.7%/0.0%であった³⁾.

使用上の注意点

  • 臨床予測ルールの適応対象、除外対象を必ず確認すること.
  • 本ツールのアウトカムはciTBIであり、観血的手術の適応とならない軽度の陥没骨折や、 1日で退院できるような少量の頭蓋内出血を見つけ出すことを目的としてはいない.
  • 陰性的中率は極めて高いが、 特異度は他のスコアに劣る可能性がある. PECARNだと約46%で頭部CTを施行することになった一方、 CHALICEだと約22%に抑えられたとの報告もある⁴⁾.

関連コンテンツ

🔢 PECARN 小児頭部外傷ルール

🔢 CATCH 小児頭部外傷ルール

🔢 CHALICE 小児頭部外傷ルール

参考文献

  1. Identification of children at very low risk of clinically-important brain injuries after head trauma: a prospective cohort study. Lancet. 2009 Oct 3;374(9696):1160-70. PMID: 19758692
  2. Pediatric Emergency Care Applied Research Network head injury clinical prediction rules are reliable in practice. Arch Dis Child. 2014 May;99(5):427-31. PMID: 24431418
  3. PECARN algorithms for minor head trauma: Risk stratification estimates from a prospective PREDICT cohort study. Acad Emerg Med. 2021 Oct;28(10):1124-1133. PMID: 34236116
  4. Accuracy of PECARN, CATCH, and CHALICE head injury decision rules in children: a prospective cohort study. Lancet. 2017 Jun 17;389(10087):2393-2402. PMID: 28410792
最終更新:2023年8月18日
監修医師:聖路加国際病院救急部 清水真人

PECARN 小児頭部外傷ルール
こちらの記事の監修医師
HOKUTO編集部
HOKUTO編集部

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

HOKUTO編集部
HOKUTO編集部

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

監修・協力医一覧
PECARN 小児頭部外傷ルール
PECARN 小児頭部外傷ルール

PECARN 小児頭部外傷ルール

小児頭部外傷患者のCT適応基準
2023年10月07日更新
概要
計算

PECARN頭部外傷ルールとは?

小児頭部外傷患者に対するCT撮影は、 被爆による悪性腫瘍リスクがある。 そこで、 臨床的に重要な外傷性脳損傷 (clinically-important traumatic brain injury:ciTBI) のリスクが非常に低く、 CTが不要と思われる小児を特定するため、 Pediatric Emergency Care Applied Research Network (PECARN) により北米の救急25施設の症例をもとに臨床予測スコアが開発された¹⁾。 同様のスコアとして、 カナダのCATCHや、イギリスのCHALICEが知られている.

対象患者¹⁾

頭部外傷後24時間以内に来院したGCS14~15の18歳未満の患者¹⁾

除外条件¹⁾

  • GCS13以下の頭部外傷患者
  • 転倒、 歩行、 静止物への衝突などの低エネルギー外傷で、 頭皮の擦過傷や裂傷以外に頭部外傷の徴候や症状がない
  • その他、 貫通外傷、 既知の脳腫瘍、 既知の神経障害、 前医ですでに画像診断がなされている

ciTBIの定義¹⁾:いずれかを満たす

  • 外傷性脳損傷(TBI)による死亡
  • TBIに対する脳外科手術の介入

  - 頭蓋内圧モニタリング

  - 陥没した頭蓋骨骨折の挙上

  - 脳室吻合術

  - 血腫除去

  - 脳葉切除術

  - 組織のデブリードメント

  - 硬膜修復など

  • 24時間以上の挿管
  • TBI関連症状*の為2泊以上の入院を要する
持続的な精神状態の変化、 頭部外傷による再発性嘔吐、 持続的な激しい頭痛、 けいれんの管理

CT上のciTBIの定義¹⁾: いずれかを満たす

  • 頭蓋内出血または脳挫傷
  • 脳浮腫
  • 外傷性梗塞
  • びまん性軸索損傷
  • 剪断損傷
  • S状静脈洞血栓症
  • 正中偏位または脳ヘルニアの徴候
  • 頭蓋骨の離開
  • 気脳症
  • 頭蓋骨陥没骨折 (≧頭蓋骨の幅分)

フローチャート¹⁾

頭部外傷後24時間以内に来院したGCS14~15の18歳未満の患者 (除外条件は前項参照).

2歳未満

PECARN 小児頭部外傷ルール
* 不穏、傾眠、同じ質問を繰り返す、言語指示に対し反応鈍い ** 車外放出、 同乗者死亡、 横転事故、 歩行者またはヘルメットのない二輪車対車の事故、 0.9m以上からの転落、 衝撃の強い物による打撃

2歳以上

PECARN 小児頭部外傷ルール
* 不穏、傾眠、同じ質問を繰り返す、言語指示に対し反応鈍い **車外放出、 同乗者死亡、 横転事故、 歩行者またはヘルメットのない 二輪車対車の事故、 1.5m以上からの転落、 衝撃の強い物による打撃

エビデンス

オリジナル¹⁾

  • PECARN危険因子陰性の2歳未満の小児では、 ciTBIに対する陰性的中率100.0% [95%CI 99.7-100.0] 感度100.0% [86.3-100.0]¹⁾.
  • PECARN危険因子陰性の2歳以上の小児では、 ciTBIに対する陰性的中率99.95% [95%CI 99.81-99.99] 感度96.8% [89.0-99.6]¹⁾.

外部検証²⁾³⁾

  • 北米とイタリアの2つの施設で、 頭部外傷後24時間以内に来院したGCS14以上の2,439人の小児を対象にした外部検証では、 両年齢層でciTBIを除外する感度が100%[83.2-100%]であった²⁾.
  • また、 特異度55%[52.5-56.6]、 陰性的中率100% [99.6-100%]であった²⁾.
  • オーストラリアとニュージーランドで実施された前向き研究では、 PECARNのそれぞれのリスクカテゴリーごとのciTBI発生率を明らかにした³⁾.
  • ciTBIの発生率は、 2歳未満の小児では高リスク群/中リスク群/低リスク群でそれぞれ8.5%/0.2%/0.0%、 2歳以上の小児では5.7%/0.7%/0.0%であった³⁾.

使用上の注意点

  • 臨床予測ルールの適応対象、除外対象を必ず確認すること.
  • 本ツールのアウトカムはciTBIであり、観血的手術の適応とならない軽度の陥没骨折や、 1日で退院できるような少量の頭蓋内出血を見つけ出すことを目的としてはいない.
  • 陰性的中率は極めて高いが、 特異度は他のスコアに劣る可能性がある. PECARNだと約46%で頭部CTを施行することになった一方、 CHALICEだと約22%に抑えられたとの報告もある⁴⁾.

関連コンテンツ

🔢 PECARN 小児頭部外傷ルール

🔢 CATCH 小児頭部外傷ルール

🔢 CHALICE 小児頭部外傷ルール

参考文献

  1. Identification of children at very low risk of clinically-important brain injuries after head trauma: a prospective cohort study. Lancet. 2009 Oct 3;374(9696):1160-70. PMID: 19758692
  2. Pediatric Emergency Care Applied Research Network head injury clinical prediction rules are reliable in practice. Arch Dis Child. 2014 May;99(5):427-31. PMID: 24431418
  3. PECARN algorithms for minor head trauma: Risk stratification estimates from a prospective PREDICT cohort study. Acad Emerg Med. 2021 Oct;28(10):1124-1133. PMID: 34236116
  4. Accuracy of PECARN, CATCH, and CHALICE head injury decision rules in children: a prospective cohort study. Lancet. 2017 Jun 17;389(10087):2393-2402. PMID: 28410792
最終更新:2023年8月18日
監修医師:聖路加国際病院救急部 清水真人

こちらの記事の監修医師
HOKUTO編集部
HOKUTO編集部

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

HOKUTO編集部
HOKUTO編集部

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

監修・協力医一覧
こちらの記事の監修医師
HOKUTO編集部
HOKUTO編集部

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師

各領域の第一線の専門医が複数在籍

最新トピックに関する独自記事を配信中

HOKUTO編集部
HOKUTO編集部

編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

表・計算

臨床支援アプリHOKUTOでご利用いただける医療計算ツールのご紹介