【制吐薬】5ーHT₃RAの使い分け!国立がん研究センター薬剤師の解説
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HOKUTO編集部

5日前

【制吐薬】5ーHT₃RAの使い分け!国立がん研究センター薬剤師の解説

【制吐薬】5ーHT₃RAの使い分け!国立がん研究センター薬剤師の解説
がん薬物療法に伴う悪心・嘔吐 (chemotherapy-induced nausea and vomiting: CINV) は、 患者のQOLを大きく損なう副作用の一つであり、 その発現を適切に予防することが重要です。 本稿では、 CINV予防における5-HT₃受容体拮抗薬 (5-HT₃RA) の役割にフォーカスし、 その特徴、 使い分け、 および実臨床での使用方法について薬剤師が解説します (第4回解説薬剤師: 国立がん研究センター中央病院 薬剤部 田内淳子先生)。 

解説薬剤師

【制吐薬】5ーHT₃RAの使い分け!国立がん研究センター薬剤師の解説

5ーHT₃RAの特徴は?

日本で使用可能な5ーHT₃RAは以下のとおり。 小児用量は成人用量と異なるため注意する。

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グラニセトロンの用量

頻用されるグラニセトロンについて、 国内で承認されている静注用の用量は40μg/kgであるが、 海外ガイドラインでは最大1mgでの投与が推奨されている。 国内でも1mgと3mgの比較試験により1mgの非劣性が証明されており¹⁾²⁾、 現在は1mgでの投与が一般的である。

第1世代と第2世代の差分

第2世代のパロノセトロンは、 第1世代薬剤に対して半減期が長く、 遅発性悪心・嘔吐に対してより高い抑制効果を示すと報告されている。 なお、 第1世代薬剤間では海外データにおいて有効性の差は認められておらず³⁾⁴⁾、 実臨床では適応や剤形に応じて選択されている。

副作用

5-HT₃RAの代表的な副作用は便秘である。 特に半減期の長いパロノセトロンでは便秘による悪心や食欲不振を誘発する可能性があり、 必要に応じて早期から下剤の使用を検討することが重要である。

5ーHT₃RAの使い分けは?

高度催吐性リスクレジメン

4剤併用療法 (NK₁RA+5-HT₃RA+デキサメタゾン+オランザピン) において、 第1世代と第2世代の5-HT₃RA間で直接比較した試験は存在せず、 効果の差は明らかでない。 以前は薬価差を考慮して使い分けられていたが、 パロノセトロン後発品の登場により薬価差が縮小し、 現在はパロノセトロンが広く使用されている。

糖尿病などでオランザピンが使用できず3剤併用療法となる場合、 急性期の制吐効果はグラニセトロンとパロノセトロンで同等 (CR*割合 : グラニセトロン91.8% vs パロノセトロン91.8%、 p=1.00) であるが、 遅発期の制吐効果はパロノセトロンが優れる (CR割合 : グラニセトロン67.2% vs パロノセトロン59.1%、 p=0.01) ⁵⁾。

*CR: 嘔吐完全抑制 (嘔吐なし、 追加の制吐薬服用なし)

また、 高血糖や骨粗鬆症といった副作用軽減を目的に、 2日目以降のデキサメタゾンスペアリングを行う場合にも、 パロノセトロンが推奨される。 ただし、 ステロイドスペアリングに関するエビデンスはアントラサイクリン+シクロホスファミド (AC) 療法に限られる⁶⁾⁷⁾ことに留意が必要である。

中等度催吐性リスクレジメン

中等度催吐性リスクレジメンに対しては、 パロノセトロンが第1世代薬剤に比べ有意に高い制吐効果を示している。 具体的には、 急性期CC割合のオッズ比1.33 (95%CI 1.12–1.58)、 遅発期CC*割合のオッズ比1.60 (95%CI 1.39–1.84) と良好な成績を示している⁸⁾。 このため、 中等度催吐性リスクレジメンではパロノセトロンとデキサメタゾンによる2剤併用療法が推奨される。

*CC: 悪心・嘔吐完全制御 (嘔吐なし、 追加の制吐薬なし、 悪心軽度または無し)

5-HT₃RAにパロノセトロンを選択した場合、 デキサメタゾンの投与は1日目のみに短縮することがガイドラインで推奨されている⁹⁾ 。 これは、 デキサメタゾン1日目のみ投与と3–4日間投与を比較したメタ解析で、 遅発期CR割合や遅発期CC割合に有意差がなかったためである。 ただし、 3–4日間投与群で悪心・嘔吐の制御が良好な傾向もみられたことから、 オキサリプラチン、 イリノテカン、 カルボプラチンなど催吐リスクが高い薬剤では、 個別に追加投与を検討する。

また、 NK₁RAを加えた3剤併用療法では、 5-HT₃RAに第1世代を選択することも許容される。 これは、 高度催吐性リスクレジメンに対する比較試験⁵⁾において、 グラニセトロンとパロノセトロンの120時間までのCR割合に有意差が認められなかった (CR割合 : グラニセトロン59.1% vs パロノセトロン65.7%、 p=0.05) ことに基づく。

軽度催吐性リスクレジメン

軽度催吐性リスクに対する制吐療法は、 明確なエビデンスがなく、 実臨床ではデキサメタゾンまたは5-HT₃受容体拮抗薬が広く使用されている。 海外ガイドライン (ASCO、 NCCN) でも両者は同列に推奨されている。

日本の実態調査¹⁰⁾では、 34.8%の症例で5-HT₃受容体拮抗薬単剤または併用療法が実施されていた。 使用薬剤の選択に関するエビデンスは存在せず、 遅発期悪心・嘔吐の発現頻度も低いため、 基本的には第1世代のグラニセトロンで対応可能である。 また、 同調査では1日目のデキサメタゾン単独療法と他制吐療法とのCR割合に有意差はなかった (30.3% vs 22.3%、 p=0.19)。 悪心歴やタキサン系抗がん薬使用歴がリスク因子とされており、 リスクを考慮して制吐療法を選択することが推奨される。

まとめ

5-HT₃RAの登場により制吐効果は大きく向上し、 特にパロノセトロンはその半減期の長さから遅発期対策にも有用である。 現在は後発品の普及により第1世代との薬価差が縮まり、 パロノセトロンの使用が増加している。 催吐リスクに応じた適切な薬剤選択が求められる。

出典

  1. Support Care Cancer. 2012;20(5):1057-64.
  2. Jpn J Clin Oncol. 2009;39(7):443-8.
  3. Support Care Cancer. 2007;15(9):1023-33.
  4. Cochrane Database Syst Rev. 2010:(1):CD006272.
  5. Ann Oncol. 2016;27(8):1601-6.
  6. Support Care Cancer. 2016;24(3):1405-11.
  7. J Clin Oncol. 2018;36(10):1000-1006.
  8. Support Care Cancer. 2014;22(6):1685-97.
  9. 制吐薬適正使用ガイドライン 第3版. 日本癌治療学会 2023年10月改訂
  10. Support Care Cancer. 2017;25(9):2707-14.

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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