【神経内分泌新生物】薬物療法~総論~
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HOKUTO編集部

2ヶ月前

【神経内分泌新生物】薬物療法~総論~

【神経内分泌新生物】薬物療法~総論~

神経内分泌新生物 (NEN; Neuroendocrine Neoplasm) は希少癌に分類され、 神経内分泌腫瘍 (NET; Neuroendocrine Tumor) と神経内分泌癌 (NEC; Neuroendocrine Carcinoma) に大別されます。 本シリーズでは、 NENの治療 (主に薬物治療) について、 エビデンスと実臨床での使用方法に分けて解説します。 第1回は、 NENの治療を概説します (第1回解説医師 : 国立がん研究センター中央病院 頭頸部・食道内科 山本駿先生)。

解説医師

【神経内分泌新生物】薬物療法~総論~

NETとNECの違い

NENは神経内分泌マーカーであるシナプトフィジンまたはクロモグラニンAの発現を認める腫瘍の総称である。 NENはKi-67 indexと分化度から、 比較的病勢が緩やかなNETと、 病勢が早いNECに大別される¹⁾。

NETはmTORやVHLなど、 特定の遺伝子異常が報告されているが、 NECはその発生過程から原発臓器に準ずる遺伝子異常を認めることが多い。 そのため、 遠隔転移例や再発例に対する、 薬物療法を基軸とした治療戦略は両疾患で大きく異なる。

近年では、 核医学治療 (ペプチド受容体放射線核種療法 [PRRT; Peptide receptor radionuclide therapy]) の開発や併用療法の開発も進められており、 生物学的背景や各種エビデンスを理解した上での治療選択が求められる。

NETの治療

ソマトスタチンアナログ

ソマトスタチンアナログは、 ソマトスタチン受容体 (somatostatin receptor; SSTR) に結合して腫瘍増殖を抑制し、 抗腫瘍効果を示す薬剤である。 オクトレオチドLARとランレオチドが日本で使用可能である。 

オクトレオチドLAR

中腸由来の切除不能なNETを対象としたPROMID試験で、 プラセボと比較して無増悪生存期間 (PFS) を有意に延長した (HR 0.34 [95%CI 0.20-0.59])²⁾。

ランレオチド

非機能性で切除不能かつグレード1または2のSSTR陽性消化器原発NETを対象としたCLARINET試験で、 プラセボと比較してPFSを有意に延長した (HR 0.47 [95%CI 0.30-0.73])³⁾。

ソマトスタチンアナログの有害事象として、 注射部位疼痛、 下痢、 胆石症等が報告されている。

分子標的薬

NETでは、 mTORやVEGF受容体が高発現を示すことから、 これらを標的とする分子標的薬の治療開発が行われた。 前者としてエベロリムスが、 後者としてスニチニブやカボザンチニブが挙げられる。 

エベロリムス

膵原発の切除不能NETを対象としたRADIANT-3試験で、 プラセボと比較してPFSを有意に延長した (HR 0.35 [95%CI 0.27-0.45])⁴⁾。 また、 消化管や肺原発の切除不能NETを対象としたRADIANT-4試験で、 プラセボと比較してPFSを有意に延長した (HR 0.48 [95%CI 0.35-0.67])⁵⁾。

有害事象として、 口内炎や下痢、 間質性肺炎等が報告されている。

スニチニブ

膵原発の切除不能NETを対象としたA6181111試験で、 プラセボと比較してPFSを有意に延長した (HR 0.42 [95%CI 0.26-0.66])⁶⁾。

有害事象として、 下痢や皮疹、 口内炎等が報告されている。

カボザンチニブ

NENに対して国内未承認

切除不能NETを対象としたCABINET試験で、 プラセボと比較してPFSを有意に延長した (HR 0.23 [95%CI 0.12-0.42])⁷⁾。

有害事象として、 疲労や下痢、 高血圧等が報告されている。

殺細胞性抗癌薬

殺細胞性抗癌薬のエビデンスは乏しいが、 アルキル化薬であるストレプトゾシンやテモゾロミドを軸に、 フッ化ピリミジン系抗癌薬を併用することがある。 

ストレプトゾシン

日本で実施された、 消化器原発の切除不能NETを対象とした第I/II相試験で、 一定の抗腫瘍効果 (奏効割合9.5%、 病勢制御割合100%) を示した⁸⁾。 有害事象として、 肝酵素上昇やリンパ球減少、 白血球減少、 嘔気等が報告されている。

PRRT

NETに発現するSSTRに親和性が高い放射線核種 (ルテチウム-177: 177-Lu) を投与し、 核種から放出されるβ線が腫瘍細胞を傷害することで抗腫瘍効果を発揮する。 

177-Luドータテート

SSTR陽性・中腸原発の切除不能NETを対象としたNETTER-1試験で、 高用量オクトレオチドLARと比較してPFSを有意に延長した (HR 0.21 [95%CI 0.13-0.33])⁹⁾。

また、 前治療歴がない、 SSTR陽性・消化器原発でグレード2または3の切除不能NETを対象としたNETTER-2試験で、 高用量オクトレオチドLARと比較してPFSを有意に延長した (HR 0.28 [95%CI 0.18-0.42])¹⁰⁾。

有害事象として、 嘔気や嘔吐、 血液毒性、 二次がんが報告されている。

NECの治療

殺細胞性抗癌薬

NECは組織学的、 臨床的な特徴が肺小細胞癌に類似していたことから、 肺小細胞癌に準じた治療開発が行われてきた。 そのため、 エトポシド+シスプラチン併用 (EP) 療法やイリノテカン+シスプラチン併用 (IP) 療法が実臨床では頻用されてきた。 2次治療以降も肺小細胞癌に準じてアムルビシンなどが用いられるが、 そのエビデンスは乏しい。 

EP療法 vs IP療法

消化器原発の切除不能NECを対象としたJCOG1213試験で、 両群の全生存期間に有意差は認められなかった (HR 1.04 [95%CI 0.79-1.37])¹¹⁾。 有害事象として、 血液毒性や嘔気、 発熱性好中球減少等が報告されている。

まとめ

本稿ではNET、 NECの治療を概説した。 今後は各治療のエビデンスを詳細に、 また実臨床での治療方法について取り上げていく。

出典

  1. Lloyd R.V., et al. WHO Classification of Tumours of Endocrine Organs. 2017.
  2. J Clin Oncol. 2009; 27:4656-63.
  3. N Engl J Med. 2014; 371: 224-33.
  4. N Engl J Med. 2011; 364: 514-23.
  5. Lancet. 2016; 387: 968-977.
  6. N Engl J Med. 2011; 364: 501-13.
  7. N Engl J Med. 2025; 392: 653-665
  8. Jpn J Clin Oncol. 2022; 52: 716-724.
  9. N Engl J Med. 2017; 376: 125-135.
  10. Lancet. 2024; 403: 2807-2817.
  11. JAMA Oncol. 2022; 8: 1447-1455.  

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💊関連薬剤情報

サンドスタチンLAR筋注用キット30mg

ソマチュリン皮下注120mg

アフィニトール錠2.5mg/

アフィニトール錠5mg

スーテントカプセル12.5mg

ザノサー点滴静注用1g

ルタテラ静注

📝レジメン

Lanreotide

Everolimus

Sunitinib

Streptozocin

¹⁷⁷Lu-Dotatate

PE (CDDP+Etop)

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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