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月刊カレントテラピー

17日前

【専門医解説】医療・介護関連肺炎のマネジメント (押尾剛志先生、松瀬厚人先生)

コンテンツ情報

医療・介護関連肺炎

東邦大学医療センター大橋病院呼吸器内科助教 押尾剛志先生
東邦大学医療センター大橋病院呼吸器内科教授 松瀬厚人先生
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🔢A-DROPスコア

市中肺炎の重症度分類

🔢I-ROADスコア

院内肺炎の重症度分類

🔢quick SOFA 🔢SOFAスコア

敗血症のスクリーニング

アブストラクト

  1. 『成人肺炎診療ガイドライン2017』において市中肺炎 (community-acquired pneumonia:CAP)院内肺炎 (hospital-acquired pneumonia:HAP)医療・介護関連肺炎 (nursing and healthcare-associated pneumonia:NHCAP) の3つに分かれていた診療ガイドラインが統一され、 肺炎を市中肺炎と院内肺炎+医療・介護関連肺炎の2つのカテゴリーに分けたうえで診断・治療アプローチを行うことが提示された。
  2. 院内肺炎あるいは医療・介護関連肺炎と診断した際には誤嚥性肺炎のリスク老衰状態の有無といった患者背景を評価し、 該当する患者に対しては「個人の意思やQOLを考慮した治療・ケア」を優先し、 該当しない場合の治療としてescalationあるいはde-escalation単剤/多剤治療を行うといった指針が明示された。

Ⅰ. はじめに

2021年のわが国の厚生労働省人口動態統計によると肺炎は悪性新生物、 心疾患、 老衰、 脳血管疾患に次ぐ死因の第5位で死亡率 (人口10万対) は59.6となっている。

老衰とされたなかに肺炎が多数含まれることや、 誤嚥性肺炎のカテゴリーが別に設けられていることから実際はさらに高い割合であり、 近年では常に死因の上位であることは周知の事実かと思われる。 また年齢階級別死亡者数では95%以上を65歳以上の高齢者が占めていることから、 肺炎死亡者数増加の一因として高齢化社会の影響が推測される。

成人肺炎診療ガイドライン2017

日本呼吸器学会の肺炎ガイドラインでは、 これまで発症の場や病態の観点から肺炎を市中肺炎院内肺炎 医療・介護関連肺炎の3つに大別し、 それぞれに診療ガイドラインを設けていたが、 『成人肺炎診療ガイドライン2017』では3つのガイドラインが統合されひとつにまとめられた¹⁾。

その背景には諸外国と日本における医療制度や死生観の差異、 また重症例や一部の特殊型を除きprimary diseaseとして扱われることの多い肺炎に対する治療方針の明瞭、 簡略化などの理由が挙げられる。

Ⅱ. 医療・介護関連肺炎の定義

医療・介護関連肺炎は米国で提唱された医療ケア関連肺炎 (healthcare-associated pneumonia:HCAP) をもとに、 わが国固有の医療事情を加味し提唱された概念である。

HCAPの定義

そもそもHCAPは市中肺炎のなかで薬剤耐性菌を有し予後不良な患者群を層別化する目的で考案された概念であるが、 その後の疫学研究でHCAPの基準のみでは薬剤耐性菌リスクが過大に評価され、 広域抗菌薬の使用が必要以上に多くなるとの指摘から米国胸部疾患学会/米国感染症学会 (ATS/IDSA) の肺炎ガイドラインから削除された。

医療・介護関連肺炎の定義

一方で医療・介護関連肺炎は肺炎死亡者数増加の一因としての高齢化社会の影響を背景に、 薬剤耐性菌リスクのみならずADL機能低下複数の基礎疾患誤嚥の有無などにも重きが置かれ、 ①長期療養型病床群もしくは介護施設に入所している、 ② 90日以内に病院を退院した、 ③介護を必要とする高齢者、 身障者、 ④通院にて継続的に血管内治療 (透析、 抗菌薬。 化学療法。 免疫抑制薬等による治療) を受けている、 といった項目のいずれかに該当するものと定義されている (表1)。

わが国で実施された医療・介護関連肺炎症例を対象とした疫学調査の結果、 医療・介護関連肺炎は市中肺炎に比し下気道検体より耐性菌が検出される頻度や死亡率が有意に高く、 わが国においてその概念は『成人肺炎診療ガイドライン2017』においても従来通り使用されている。

Ⅲ. 診断

医療・介護関連肺炎は定義のうえで対象者の多くが高齢者となるため、 必然的に高齢者肺炎におけるADL機能の低下や脳血管障害などに伴う嚥下機能障害を背景とした誤嚥性肺炎が大きな比率を占めるといった特徴を有する。 また薬剤耐性菌が肺炎の原因菌となるリスクが高いことから治療が困難となることが多く、 死亡率も院内肺炎、 医療・介護関連肺炎、 市中肺炎の順に高くなるため適切な診断と重症度の把握を行い治療につなげることが重要となる。

高齢者特有の症状

一般的に咳嗽膿性喀痰息切れ胸痛といった呼吸器症状に加え、 発熱や倦怠感食思不振といった全身症状が認められた場合に肺炎を疑うが、 高齢者では呼吸器症状に乏しく、 発熱など典型的な症状が認められずうつ状態せん妄などの意識状態の変化失禁といった症状が主体となることにも注意する。

加えて患者自身が自覚症状を訴えられないことも多く、 家族からの「普段より元気がない」などの報告から診断されるケースも決して珍しくはないため、 常に鑑別診断として挙げることが肝要である。

胸部聴診所見・血液検査所見

胸部聴診所見でのcoarse crackles聴取、 胸部X線検査で気管支透亮像を伴う浸潤影、 血液検査所見で好中球優位の白血球数増加炎症反応 (CRP上昇、 赤沈亢進、 プロカルシトニン上昇) などから総合的に肺炎の診断を行い、 可能な限り原因菌同定のために呼吸器検体を用いた細菌学的検査を行う。

診断の際には同様の病態を示す心不全や急性呼吸窮迫症候群 (acute respiratory distress syndrome:ARDS) などの疾患の除外も重要となる。

Ⅳ. 患者背景のアセスメント

医療・介護関連肺炎では老衰の経過で発症する例や予後不良の終末期肺炎の像を呈する例も多く、 必ずしも適切な治療が生命予後を改善するとは限らない²⁾。

『成人肺炎診療ガイドライン2017』での改訂ポイント

『成人肺炎診療ガイドライン2017』での大きな改訂ポイントが終末期の肺炎に踏み込んで治療方針などに言及した点であり、 疾患の末期や老衰などの不可逆的な死の過程にある終末期の患者が含まれる院内肺炎と医療・介護関連肺炎をひとつの診療群として市中肺炎と分けて診療のプロセスを示すこと、 院内肺炎および医療・介護関連肺炎の患者では最初に終末期の患者を鑑別することの2つの方針が明示された。

診断した際にはまず誤嚥性肺炎のリスクを有するかどうか (表2)、 終末期ではないかどうかの評価を行う。 そのいずれか、 またはいずれにも該当する場合、 「患者本人や家族と相談した上で、 個人の意思やQOLを尊重した患者中心の治療・ケアを行う。 また治療開始した後でも、 継続的に患者本人や家族の意思を確認し、 状況に応じて治療方針の変更がありうることを説明しその機会を保証する」とされた。

当然ではあるが高齢者肺炎のすべてが医療・介護関連肺炎に該当するわけではなく、 そのような場合には一般的な市中肺炎の治療方針を選択する。

Ⅴ. 終末期の判断

肺炎診療において考慮される終末期とは「病状が進行して、 生命予後が半年以内と考えられる時期」とされる亜急性型終末期と「病状が不可逆的かつ進行性で、 その時代に可能な最善の治療により病状の好転や進行の阻止が期待できなくなり、 近い将来の死が不可避の状態」とされる慢性型終末期である。

いずれの定義も判断するに足る医学的エビデンスが不足していることを理解したうえで慎重な判断が求められる。

Ⅵ. 終末期の判断

老衰の一環としての肺炎や癌などの疾患末期に発症する肺炎と診断した際には、 治療方針を決定するうえで患者個人や家族の意思を尊重し判断することが提唱された。

人生の最終段階においては本人の意思が最も重要であり、 その意思を尊重した医療ケアを提供するなかで尊厳ある生き方を実現していかなければならない。 QOL (quality of life) やQOD (quality of death) を重視し、 状況によっては延命措置の差し控えを選択することも、 積極的な治療を選択することも、 緩和医療を優先することもすべからく選択肢となる。

実際に患者の意思を尊重した医療プロセスの決定には十分な情報を患者あるいは患者家族に提供し、 患者本人の希望を原則として、 多専門職種の医療従事者から構成される医療ケアチームによって、 医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断することが望ましく、 厚生労働省が出した『人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン』、 日本学術会議の『終末期医療のあり方について』、 日本老年医学会の『高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン』が参考となる。

Ⅶ. 重症度と耐性菌リスク因子の評価

積極的な治療が必要と判定された場合にはquick SOFASOFAスコアを用い敗血症の有無を評価し、 そのうえで肺炎の重症度を評価する。

医療・介護関連肺炎は臨床背景の多様性から従来のガイドラインでは重症度分類を規定せず、 治療区分により治療内容が推奨されていたが、 『成人肺炎診療ガイドライン2017』ではこの点が変更となり、 重症度は市中肺炎と同様にA-DROPで評価をすることが推奨され (表3)、 軽症・中等症は「重症度が高くない」、 重症・超重症は「重症度が高い」と2段階に分類された。

耐性菌のリスク因子

耐性菌のリスク因子は①過去90日以内に経静脈的抗菌薬の使用歴、 ②過去90日以内に2日以上の入院歴、 ③免疫抑制状態、 ④活動性の低下:PS≧3、 歩行不能、 バーセル指数<50、 経管栄養または中心静脈栄養法の4つに規定され2項目以上該当で耐性菌の高リスクと判断される³⁾。

また、 過去にMRSAの分離既往過去90日以内に経静脈的抗菌薬の使用歴があるとMRSA保菌リスクにも該当する⁴⁾。

Ⅷ. 抗菌薬による治療

肺炎の診療では原因菌の同定が極めて重要であり、 喀痰グラム染色は医療・介護関連肺炎であっても市中肺炎と同様にその後の抗菌薬選択の一助となるため⁵⁾、 原因菌の検索と発熱のワークアップを念頭に喀痰グラム染色・喀痰培養血液培養を2セット採取し薬剤感受性検査を行う。

しかしながら適切な細菌学的検査が困難であることや原因菌か保菌かの判断に難渋することも多く、 市中肺炎以上にエンピリ ック治療が重要となる。 従来のエンピリック治療は広域抗菌薬で治療を開始し、 原因菌の同定後に狭域抗菌薬へ変更するde-escalation治療が主流であったが、 『成人肺炎診療ガイドライン2017』では狭域抗菌薬で治療開始し、 治療経過に応じて広域抗菌薬へ変更するescalation治療が新たに提唱された。

医療・介護関連肺炎のエンピリック治療は敗血症の有無、 重症度、 耐性菌リスクの有無によって以下の方法が推奨される (表4)。

1 敗血症 (-) で重症度が高くない、 かつ耐性菌リスク (-) の場合

Escalation治療が推奨され、 抗菌薬選択の例としてスルバクタム・アンピシリンセフトリアキソン、 またはセフォタキシム、 非定型肺炎が疑われる場合にはレボフロキサシンが挙げられる。

2 敗血症 (+)、 または重症度が高い、 または耐性菌リスク (+) の場合

De-escalation単剤治療が推奨され、 抗菌薬選択の例としてタゾバクタム・ピペラシリン第四世代セフェム系薬カルバペネム系薬ニューキノロン系薬いずれかの単剤が挙げられる。

3 敗血症 (+)、 または重症度が高い、 かつ耐性菌リスク (+) の場合

De-escalation多剤治療が推奨され、 ペニシリン系薬第四世代セフェム系薬カルバペネム系薬をベースにしてニューキノロン系薬、 またはアミノグリコシド系薬を併用する。

高齢者や免疫能が低下した患者が多く、 常に結核感染の有無に注意が必要といった側面もあることや、 嫌気性菌への抗菌活性が乏しい薬剤もあることから、 通常ニューキノロン系薬が第一選択となることは少ない

他方、 MRSA保菌リスクがあればバンコマイシンテイコプラニンリネゾリドなどの抗MRSA薬を併用する。 抗菌薬の有効性は48~72時間後に臨床症状や血液、 画像所見などから総合的に判定する。 抗菌薬投与期間に関しては短期間 (8日以内) の治療群と10~15日の長期間治療群を比較したRCTのメタアナリシスによると、 アウトカムには有意差が認められず、 医療・介護関連肺炎であっても1週間以内の比較的短期間が提案されている。

詳細は別稿に譲るが院内発症の誤嚥性肺炎に関しては早期のエンピリックな抗菌薬投与が致死率や重症化などのアウトカムを改善せず⁶⁾、 また耐性菌や緑膿菌のカバー患者個々の背景を考慮して判断することが推奨されている⁷⁾⁸⁾。

参考文献

  1. 日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2017作成委員会編:成人肺炎診療ガイドライン2017。 日本呼吸器学会、 2017
  2. Givens JL, Jones RN, Shaffer ML, et al:Survival and comfort after treatment of pneumonia in advanced dementia. Arch Intern Med 170:1102-1107, 2010
  3. Maruyama T, Fujisawa T, Okuno M, et al:A new strategy for healthcare-associated pneumonia:a 2-year prospective multicenter cohort study using risk factors for multidrug-resistant pathogens to select initial empiric therapy. Clin Infect Dis 57:1373-1383, 2013
  4. Kalil AC, Metersky ML, Klompas M, et al:Management of Adults With Hospital-acquired and Ventilator-associated Pneumonia:2016 Clinical Practice Guidelines by the Infec- tious Diseases Society of America and the American Thorac- ic Society. Clin Infect Dis 63:e61-e111, 2016
  5. Del Rio-Pertuz G, Gutiérrez JF, Triana AJ, et al:Usefulness of sputum gram stain for etiologic diagnosis in community-acquired pneumonia:a systematic review and meta-analy- sis. BMC Infect Dis 19:403, 2019
  6. Dragan V, Wei Y, Elligsen M, et al:Prophylactic Antimicro- bial Therapy for Acute Aspiration Pneumonitis. Clin Infect Dis 67:513-518, 2018
  7. Mandell LA, Niederman MS:Aspiration Pneumonia. N Engl J Med 380:651-663, 2019
  8. Heffernan AJ, Sime FB, Lipman J, et al:Intrapulmonary pharmacokinetics of antibiotics used to treat nosocomial pneumonia caused by Gram-negative bacilli:A systematic review. Int J Antimicrob Agents 53:234-245, 2019

こちらの記事の監修医師
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HOKUTO編集部
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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