HOKUTO編集部
26日前
『胃癌治療ガイドライン 2025年3月改訂 第7版 (以下、 第7版) ¹⁾』 (日本胃癌学会編) が、 2025年3月に発刊された。 第97回日本胃癌学会では、 第7版作成委員で、 埼玉県立がんセンター消化器内科科長の原浩樹氏が、 内科 (薬物療法) 領域における主な改訂ポイントを解説した。
今回の改訂では内科領域が大幅にアップデートされ、 主に以下5つの重要臨床課題、 およびクリニカル・クエスチョン (CQ) に変更がみられた。
原氏は、 特に注目すべき第6版からの改訂ポイントとして、 切除不能進行・再発HER2陰性胃癌の1次治療に対する免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) や抗CLDN18.2抗体ゾルベツキシマブの推奨、 バイオマーカー検査の重要性等に関わる重要臨床課題12や13を挙げた。 さらに、 第7版では新たに高齢者医療における投与量や適応レジメンの配慮も打ち出され、 多様な患者背景に対応できる治療指針が提示されているという。
今回の発表では、 第7版における3つの重要臨床課題に関する主要な変更点が解説された。
近年、 新たなICIやゾルベツキシマブなどが承認されたことに伴い、 第7版でも下表の通り、 切除不能進行・再発HER2陰性胃癌の1次治療に対し、 化学療法にICI (ニボルマブ or ペムブロリズマブ) またはゾルベツキシマブを併用する10つのレジメンが、 「推奨される化学療法レジメン」 として治療選択肢に追加された。
HER2陰性の切除不能進行・再発胃癌において、 1次治療として、 化学療法+ICI (ニボルマブまたはペムブロリズマブ) 併用療法を行うことが強く推奨された (重要臨床課題12 、 CQ12 )。 根拠となった主要な第Ⅲ相試験は、 CheckMate 649試験とKEYNOTE-859試験の2試験であった。
ニボルマブ+化学療法 : CheckMate 649
HER2陰性進行胃癌の1次治療で新たな選択肢に加わったニボルマブ+化学療法併用については、 HER2陰性の切除不能進行・再発胃癌を対象に、 1次治療としてのニボルマブ+化学療法併用の有効性を評価したCheckMate 649試験の結果、 主要評価項目であるCPS≧5の患者群 (HR 0.71、 p<0.0001) および全集団 (HR 0.80、 p=0.0002)、 CPS≧1の患者群 (HR 0.77、 p=0.0001) で同レジメンの有益性が示された²⁾。
ただし、 CPSが低値になるほど全生存期間 (OS) の改善効果は限定的であることも確認されている。 一方で、 高頻度マイクロサテライト不安定性 (MSI-High) 例のハザード比 (HR) は0.34と、 大きなOS改善効果が示された。
原氏は 「CPS 5未満の中にもMSI-Highが含まれていることに留意が必要であり、 HER2陰性進行例の1次治療はCPSのみならずMSIのバイオマーカー評価に基づいた選択が重要になる」と指摘した。
SOX + Nivo / FOLFOX + Nivo / CAPOX+Nivo
ペムブロリズマブ+化学療法 : KEYNOTE‐859
また同じくHER2陰性進行胃癌の1次治療で新たな選択肢に加わったペムブロリズマブ+化学療法併用については、 同併用療法の有効性を評価したKEYNOTE-859試験において、 全集団 (HR 0.78)、 CPS≧1 (HR 0.74)、 CPS≧10 (HR 0.65) のいずれもOS改善効果が示された (いずれもp<0.0001)³⁾。 しかしニボルマブ併用療法と同じように、 CPSが高い症例ほど効果が大きく、 低い症例では効果が小さいことが確認されている。
なおCPSのカットオフについては、 これら2試験の結果のみでは、 CPSのカットオフ推奨の線引きを結論づけるのは難しく、 米国食品医薬品局 (FDA) の抗癌薬諮問委員会 (Oncologic Drugs Advisory Committee; ODAC) でも大きな議論がなされた経緯があるという⁴⁾。
原氏は「実際にCPS 1~5、 5~10などのカットオフ付近の集団における有効性データは不確定要素があり、 統一見解には至っていない」と報告した。
ゾルベツキシマブ+化学療法 : SPOTLIGHT、GLOW
HER2陰性のうちCLDN18陽性の胃癌に対しては、 抗CLDN18抗体ゾルベツキシマブの化学療法への上乗せ効果を検証したSPOTLIGHT試験やGLOW試験において無増悪生存期間 (PFS) およびOSの改善効果が示され⁵⁾⁶⁾、 第7版では、 ゾルベツキシマブはICIに並ぶ新たな治療選択肢として推奨される化学療法レジメンに組み込まれた。
Zolbetuximab+FOLFOX /Zolbetuximab+CAPOX
さらに今回の改訂では、 SOX (S-1+オキサリプラチン) +ペムブロリズマブがHER2陰性進行胃癌の1次治療において条件付き推奨として追加された。 この変更は、 第Ⅲ相試験としてのエビデンスがないものの、 本邦で実施された第Ⅱ相試験の結果から、 有効性および安全性において遜色のないデータが示されているとの考察を根拠として、 条件付きでの追加に至ったという。
また第7版では、 「切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き⁷⁾」 最新版を参照し、 以下4項目のバイオマーカーに基づき1次治療を選択することが 「強く推奨」 された (重要臨床課題13、 CQ13-1)。
バイオマーカー検査の結果、 HER2陰性の場合はCPSスコアやCLDN18の発現状況ステータスを考慮して1次治療を選択することが望ましい。 例えば、 CLDN18陰性かつCPS<1などの集団においてはICIの上乗せ効果が期待しづらく、 ゾルベツキシマブも適応にならないため、 従来の化学療法単独も考慮される。 一方、 CLDN18陽性かつCPS<1ではゾルベツキシマブ併用が優先され、 CPS≧1以上の場合には、 患者や施設の状況によってゾルベツキシマブとICIのいずれも選択肢となり得る。
原氏は、 「CPSが高い症例をICI一択と考えるのではなく、 CLDN18陽性の場合はゾルベツキシマブの選択も検討するなど、 実臨床では上記4項目のバイオマーカー検査の結果を基軸として、 病態や患者背景、 治療への患者意向等を考慮し総合的に判断することが重要である」 と報告。
またバイオマーカー検査について、 同氏は 「患者の検体量の問題や施設の制約などで、 必ずしも4項目全てのバイオマーカー検査を実施できない状況も想定され、 その場合は他の代替治療オプションも含め、 個別に検討する必要がある」 と説明した。
高齢の切除不能進行・再発胃癌患者への治療戦略に関しては 「全身状態や意欲を慎重に評価したうえで,患者本人が状態良好 (fit) かつ意思決定能力を有し治療意欲があれば、 化学療法を計画するときに年齢を考慮することを弱く推奨する」 こととされた (重要臨床課題10、 CQ10-2 )。
一方で、 「それ以外の場合 (vulnerable/unfit) は状況が多彩であるため、 明確な推奨ができない」 とされた。
高齢患者への治療戦略に関しては、 国内外で検証が進められている。
年齢中央値が76歳、 PS≧2が3割という高齢・脆弱性ありの集団を対象に、 CapeOX療法 (本邦の承認用量とは異なる変法) の有効性を100%量・80%量・60%量の3群に分けて評価した英国のGO2試験では、 減量群のPFSは通常量群に非劣性であり、 かつ毒性を軽減できることが示された⁸⁾。
また、 日本における胃癌患者の約85%は65歳以上、 72%が70歳以上とされる。 それにも関わらず、 主要な第Ⅲ相大規模臨床試験 (CheckMate 649、 KEYNOTE-859、 SPOTLIGHT) で65歳以上が占める割合はいずれもおよそ3分の1程度に留まっており、 日本の実臨床の患者像を十分に反映できていない傾向が指摘されてきた。そこで日本でもJCOG高齢者ワーキンググループなどにより、 高齢患者を対象とする研究が進められている。
S-1単剤療法とS-1+オキサリプラチン (SOX) 療法を比較した第Ⅱ相試験WJOG8315Gでは、 全集団ではSOX療法のS-1単剤療法に対する優越性が証明された (S-1: 13.0ヵ月、 SOX: 16.2ヵ月、 HR 0.73) ものの、 同試験の無作為化前に行われたG8 Screening toolを用いた合計スコアが11以下の患者は11超の患者に比べ、 SOX療法の有益性が限定的になることも確認された⁹⁾。
原氏は 「脆弱状態でG8スコア低値の高齢者においては、 患者の状態に応じてS-1単剤療法も提示可能な選択肢となりうる」 と説明した。
最後に原氏は 「第7版では、 治療選択におけるバイオマーカー活用が大幅に強化された。 HER2、 PD-L1 (CPS)、 MSI/dMMR、 Claudinの4項目測定が治療選択の重要な指針として導入されたことから、 個別化医療がさらに進展した。 またHER2陰性の切除不能進行・再発胃癌の1次治療は、 ICIやゾルベツキシマブの使用が推奨され、 新たな治療選択肢が提供されている。 今回の改訂により各治療の根拠がさらに明確化されたことで、 胃癌治療の均てん化と成績向上が期待され、 本ガイドラインは臨床現場での重要な指針となりうるだろう」 と報告した。
¹⁾ 日本胃癌学会編 : 胃癌治療ガイドライン 2025年3月改訂 第7版. 金原出版. 2025年3月15日発刊
²⁾ Lancet. 2021 Jul 3;398(10294):27-40.
³⁾ Lancet Oncol. 2023 Nov;24(11):1181-1195.
⁴⁾ Meeting of the Oncologic Drug Advisory Committee. FDA. September 26, 2024.
⁵⁾ Lancet. 2023 May 20;401(10389):1655-1668.
⁶⁾ Nat Med. 2023 Aug;29(8):2133-2141.
⁷⁾ 日本胃癌学会 : 「切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き」 WEB版第1.1版
⁸⁾ JAMA Oncol. 2021 Jun 1;7(6):869-877.
⁹⁾ Annals of Oncol. 2023 Nov; 34:Suppl3. S1390
【胃癌治療GL速報】ペムブロリズマブを1次治療として推奨 : HER2陰性進行胃癌/胃食道接合部癌
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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